口は災いの元とはよくいったものだ




 久々に自室でのんびりとしていたときだ。ふと、目に入った自分たちの荷物。そういえば、最近はいろんなことがありすぎて放置したままだった。そのことに気付いて、荷物の確認というか、使えそうなものはないか暇つぶしに整理しよう、とに持ちかけたのが発端だった。
 部屋の隅に置いてあった私物を引っ張り出してきて、面倒だったからかばんをひっくり返して中身を全て出す。が若干眉を顰めたけど、まぁ邪魔にはなっていないからいいだろう。特に壊れそうなものとは持ち歩かないし。

「携帯、財布、眼鏡、手帳、定期、鍵、ハンカチ、ティッシュ」
「あんた、女の子の荷物じゃないね」
「基本的に必要なものしか持ち歩かないからね」

 化粧もしないし。少ない荷物に呆れたにそんな適当な言葉を返しつつ、かばんからできてたものを並べる。必要最低限、といえば聞こえがいいかもしれないが、本当に女の子としていろんなことが欠けてるよなぁ、と自分でも思わないわけではない。鏡とかぐらいは持ち歩いたほうがいいとかよく言われる。まぁ女の子は身だしなみに気を使うから必要なのだろうけど、しかし自分に限っては必要性を感じないのだ。別に髪を結んでいるわけでもないし、ましてやきれいに纏めているわけでもない。朝に髪を梳いたらそのまま。風でぼさぼさになったとしても手で簡単に直してしまうから鏡なんていらない。使わないのに持ち歩くだけ無駄である。そんなこと姉にぼやいたら、それはお前が直毛だからだとか怒られたこともあったな、そういえば。ぼんやりとそんなことを思い出しつつ、ハンカチの下に隠れていたものに気付いた。

「あ、持ってきてたんだ」
「あー、うん。お前見たいっていってたし」
「そうだっけ?」
「そうだよ」

 素で忘れていたらしいにため息をつきながら、コスプレするわけでもないのに買ってしまった白龍の逆鱗ネックレスなるものをに投げた。上手い具合に受け取ったをぼんやりと眺める。そういうアクセサリーを作って売っているサイトを見つけたからといって、その場の勢い買うとは自分もまだ若かったと思う。他にもいろんなゲームのキャラたちがつけていたピアスや指輪やらたくさんあったから、テンションが高くなっていたんだよなぁ。その中から白龍の逆鱗を模したネックレスを選ぶあたり、現在の嵌り物がわかるというものだ。中々に精巧な作りだね、と逆鱗もどきを眺め回しているに相槌をうった。確かに、届いたときはあまりの精巧さに驚いたものだ。逆鱗の部分はなにやら合成の石を使っているようだったから妙に現実感があって現実感がなかった。まぁゲームの中のものだし、と届いた日はしばしば眺めて感心していた。数週間前のことであるが懐かしい限りである。
 昔というには近く、最近というには遠い日のことを思い出していると、何かを考え込んでいたが顔をあげた。至極真剣な表情に何事かと眉を寄せて身構える。


「どした?」
「これで時空跳躍できないかな?」
「できません」

 間髪いれずそう答えた。できるわけがない。それは白龍の逆鱗を模した物でそんな力は一切ないのだ。不思議な力も衰えたというか無くなってしまったに近い科学が発達した現代で作られ、しかも大量生産されているんだぞ。製作者だって趣味の範囲を超えない素人だ。なのにそんなものに時空跳躍の力があったら怖いわ。現実をみろ、とばっさりと一刀両断されたはそれでも必死な形相で喰らい付いてくる。なんだ、なにがをそんなに煽り立てるんだ。

「お前だって理解してるだろ?それ、逆鱗もどきだから」
「でもさ、これだけ似てたらさ、もしかして!ってあるかもしれないじゃん!」
「こっちに来てから手に入れたのだったら可能性はあるかもだけど、それ自分の持ち物じゃん」
「でも、でもさぁ・・・!!」
「無い無い無い。そんな可能性皆無」

 完全否定する自分の言葉を受けてか、はがくっとうな垂れる。それはみていて申し訳なくなるぐらいの落ち込みようで、一体何故そんなこと言い出したのかわからない自分にとってはその光景をみて疑問符を浮べ続けることしかできない。その力が欲しい重大な理由でもあるのだろうか。

「なぁ、なんでそんなこと言い出したわけ?」
「・・・ヒノエと出会う日とか、時間とかイベントとかわかったじゃん」

 まぁ、あれとイベントと呼ぶなら、そうなのかもしれない。

「うん」
「だから今度は時空跳躍して銀張ろうよ・・・!!!」

 やはりは相変わらずだった。なんだそれ。どこからそんな発想でてくるのか不思議で仕方ない。断腸の思いで、といわんばかりの気迫と熱のこもった言葉に呆れるしかできなかった。無理だよ、さん。普通に無理。あれは望美だけに与えられる特権とも呼べるような力なんだから。大体過去を変えるとか、駄目でしょう、普通に。例えゲームだとしても、だ。

「無理かなぁ、無理かなぁ?!」
「何度もいってるじゃん。無理だ、」
『面白い。それ、のった』

 どこからか声が聞こえてきて、一瞬だけ鋭い頭痛に襲われた。それと同時に流れ込んできた情報に今度は自分がうな垂れる番だった。あり得ない。なにしくさってんのあのお姉さまは。

くんやったよ!あのお姉さまが力くれた!!」
「あぁ・・・そうだね・・・いらないこと・・・してくれたね・・・」

 心底嬉しそうに、珍しくもなんの裏も無い笑みを浮べるには申し訳無いが、面倒なことをしてくれたという感想しか持てない。あぁ、頭が痛い。わかっているのか、天帝。過去を変えるって、望美でもない自分たちが過去を変えるって、いいのか。天帝。

「これ、跳躍する以外にも使えそうだけど、これなら跳躍しかないよね!」
「嬉しそうですね、さん」
「もちろん!あの忠犬駄犬に会えるなんて楽しみすぎるよ!」
「本音でてますよ」

 頭の中で呼びかけるけど変事は無かった。



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(2008/06/15/)