「ぎゃあ!」 「避けるな」 「誰でも避けるわ!」 つまらない、とばかりに息をつく知盛を、情けないことに地面に尻餅をついた状態で睨みつけた。近くで将臣は困ったかのようななんとも微妙な表情でこちらを見ている。みていないで助けて欲しい。切実にそう思った。 「お前が刀の扱いを習いたいと、俺にせがむからわざわざ教えてやっているというのに・・・、もう少し真面目にやれ」 「やってるよ!その前にせがんでない!ていうかいきなりガチで戦うとかありえないから!」 「教えてやっただろう」 「あれを教えたとかいわない!」 「己の知能の低さを人のせいにするのは、浅ましい人間がすることだぞ・・・」 「それお前にもいえるから!大体別にお前に教えてっていってない!お前から鍛練をつけてやるとかいいだしたんだろ!」 「・・・そうだったか?有川」 「あぁ、のいう通りだぜ」 「・・・ふん、まぁ、そんなことはどうでもいい」 「あっお前!いま思い出すこと放棄しただろ!」 「諦めろ」 怒鳴り散らして息が荒く、青筋を浮べているだろう自分に、将臣が諭すように言葉を投げかける。きっと将臣は既に諦めているのだろう。いろいろと。この適当人間を。自分も大概適当で大雑把だとは思っていたが、まさかここまでとは。上には上がいた。あぁ、もう、こいつの世話をしている将臣がすごすぎる。 「ほら、続けるぞ」 「殺す気か!!」 △▽△ 空が赤く、世界までもを赤く染めてしまいそうな夕暮れの中、将臣を並んで梶原邸への道を歩いた。ここ数日、思い出したくもない経緯で知盛に小太刀、というか二刀流の戦い方を教えて貰っている。その間に偶然、ではないけれど、望美が将臣を梶原邸に連れて来たりいろいろとあった。将臣は知盛と合流したあとでもやることがあるらしく、梶原邸にお世話になっている。合流したといっても、知盛はいつもふらりと消えるから本当に合流したとはいえないらしい。思わず大変だね、と将臣を見上げて労ったものだ。しかしこういう時間軸だったかなぁ、と疑問に思うが、よくは覚えていないからなんともいえないし気にすることもないだろう。というか気にしている暇がない。連日、何故かふらりとよく消える知盛が、将臣の指定した鍛練場所までやってくるために毎日死に掛けているのだ。教えてやるという割りに、このときはこうしてこんなときはあぁして、と全く説明にならない説明をして、いきなり剣をあわせるぞ、となるからだ。初日に地獄をみた自分は将臣にいろいろと問い詰めれば、案外気に入られてるぞ、と笑っていわれて絶望の淵へと投げ込まれた。あれに気に入られたなんて、考えたくもない。習っておいてあれですけども。利用しておいてなんですけども。勘弁してほしい。 今日もまた増えた傷を見ながら、いろいろ思い出せば自然と顔が険しくなった。 「・・・お前、眉間にしわ、寄りまくってるぞ」 「え、あ、あぁ、これも全部あいつのせい」 「あぁ・・・まぁ、否定はできないな。でも、あいつ結構楽しそうだぞ」 「・・・」 「いや、うん、気持ちはわかるぜ」 将臣の言葉にどんな顔をしてしまったのかわからないが、困り顔でぼす、と頭を叩くようになでられた。痛い、といえば悪い、と返されるが跳ね除けはしないから、そのままなされるがままに頭をかき回されている。 「あいつがあんなに喋るの、珍しいんだぜ」 「そう?」 「あぁ。ついでにあんなに生き生きとしてるところなんか、最近はみなかったな」 「それって丁度良い玩具が手に入ったからじゃないの?」 鼻で笑って吐き捨てるようにいえば、知盛も嫌われたもんだなぁ、と失笑交じりで呟く。しかしいい加減ぼさぼさだから手を離してもらいたいものだ。深く盛大にため息をついた。 「・・・自分もさ、あそこまで言い返すの珍しいんだよね」 「なんとなくわかるぜ」 「やっぱり?」 「最初のお前って、なんか遠慮して距離とってただろ?」 「人見知りするんだよ」 「あー、っぽいな」 「よくいわれる」 「だけど、いまはそんなことないんじゃねぇ?」 「・・・だって、さぁ。遠慮してたら死にそうなんだもん」 実際に死ぬことはないのに、感じる予感。本能が発する危険信号。知盛とやりあっていたら、強く感じる。これは現実ではないのかと錯覚するほどに、強く。だから遠慮とか、いろんなことを無視して取り去って、知盛に、目の前の現実に向かわなければと思うのだ。ゲームのはずなのに、死ぬはずないのに、必死になって危険因子を排除しようとしている。可笑しいったらありゃしない。 「・・・ほら、お前、また眉間にしわ」 「おっといけね。これから弁慶さんに小言もらうっていうのに」 「あぁ、また傷できたからか?」 「そうそう。変な詮索されちゃ困るしさ」 「・・・悪いな」 「別に。面倒ごとは嫌い」 はっ、と鼻で笑うようにいう。偶然知ってしまった事実をここでいうわけにはいかないし、なによりここは将臣にとっての敵地に近いところだ。できるだけ身分を隠したい、という気持ちもわからないわけではない。説明も面倒であるし。まぁ、には全てわかっているというか吐かされたんだけど。思い出して軽く眩暈がした。 「・・・ありがとな」 「・・・なんで礼いわれてんの?」 「ははっ照れない照れない」 「ちょ、意味わかんない!てか重い!!」 腕を肩に回されて、あまりの近さに跳ね除けようとしたけど上からかかる重さと力強さに勝てるわけがなかった。梶原邸の門が見える。このままでは弁慶さんとの手繋ぎイベントの二の舞になる。それは避けたい。 「ちょ、まじで重いから!」 「はははは!」 「意味わかんな、」 「あ、お帰りなさい将臣くん、さん」 「おーただいま望美」 「二人とも、仲いいね」 グッバイ平穏!! << >> (2008/05/18/) |