弁慶と別れて、が待っているであろう縁側へと急ぐ。大分遅くなってしまった。ちらりとのことを思うけど、先ほどのことで上機嫌な自分は笑顔で責められてもきっと平気だ。明日が楽しみだなぁ、と思いながら走った。 「ごめん、お待たせ」 「遅いよ」 「ごめんって、・・・はいこれ」 「ありがと」 「・・・望美さんは?」 の湯飲みにお茶を注いで渡し、そそくさと自分の湯飲みにもお茶を注いでいると雑談していたはずの望美が近くに居ないことに気づいた。呆れたようにがお茶をすすりながら指差した方向をみれば、いつの間にか九郎に稽古をつけてもらっている望美がいる。本当だ、と呟いて同じようにお茶をすすれば隣からあんたみえてなさ過ぎ、とため息をつかれた。 「それで?湯飲み取りに行くくらいでなんでこんなに遅くってきみは上機嫌なのかな?」 「あー・・・、うん、ちょっといろいろあったんですよ、はい」 「んじゃあ包み隠さず話してみようか」 「・・・めんど」 「なにかいった?」 「喜んで話させていただきますよーえぇ是非とも話させてください!」 にっこり笑うに息継ぎなしで口早に叫び、何事だと振り向いた九郎と望美には手を振ってなんでもないとだけ伝えた。不思議そうな顔をしていたが、にっこり微笑めば望美は微笑み返して九郎と向き直り一言二言話してから稽古を再開する。打ち合う二人を眺めながらよくついていけるなぁ、なんて思いながらも笑顔で圧力をかけてくるに事の全容を包み隠さず話した。話し終えたときはお茶も冷えてしまっていたが、酷く喉が渇いていたために気にせず口を潤す。はなにか考え込むように望美たちを眺めていたが話し疲れていたこともあって何も聞かなかった。 「あんた、弁慶さんにはボロはだしたらだめだからね」 「んなことわかってるし」 「いや、もう、それなら気づいてよ」 「なににさ?」 「話し聞く限りじゃ探られてたよ、弁慶さんに」 妙に珍しく神妙な顔をしているかと思ったら予想外なことをいわれた。目を丸くしてまじまじとを見返して、がそういうのならばそうなんだろうと差し出された湯飲みにお茶を注いで渡す。ちょっと悲しいな、なんて思わないわけでもないが個人行動も多いし怪しまれるのは仕方ないことなのかもしれない。そういえば今日はなにをしていたとか聞かれたし、相対していたときに妙に緊張したし、直感でなにか感じ取っていたのかもしれない。それにしてもってばさすが腹黒。 「あんたいま失礼なこと思ったでしょ」 「いや、鋭い観察眼だなって考えてただけだよ」 しれっと答えて二杯目のお茶を喉に流し込む。内心ひやひやしていたが見逃してくれたらしく、横目で睨まれただけにとどまった。 「ま、あんた明日弁慶さんと行動するんだから気をつけてよね。絶対にボロだしちゃいけないからね」 「わーかってるって」 「あんたはつめが甘いっていうか鈍いからなぁ・・・」 「あんま関係なくない・・・?」 「大有りよ。探られてるの気づかないで情報引き出されそうで怖いわ」 そういって重々しくため息をつくに眉を寄せてなんでもそこまで間抜けじゃないし、と反論しようとしたところで朔にご飯だと呼ばれた。反論できずに話はここで終わり微妙な心境なまま夕飯を食べることとなったが、このときのの心配がどこか引っかかって明日は油断しないでがんばろう、と思うところで自分も結局は危惧していんだということに気づいた。なんか情けない。 △▽△ 譲の美味しい夕飯をありがたくいただいて早々に部屋に戻った。今後どう動くかをそれなりに決めるべくと昼間の残りである干し果実を頬張りながら話す。もちろんできる限り気を張った。聞かれちゃまずいということはないかもしれないが、確実な信用を得ていない現段階では聞かれてごまかすという行為でさえ危うい。内緒話をしていたというだけで睨みをきかされそうで(主に某軍師が)怖い。そんな綱渡りして堪るか。 「んじゃあそろそろ寝よっか」 「ちょい待ちくん。夜中も張るっていったでしょ」 「いやもう限界。眠い。今日妙に疲れたし」 夜も更けた、という時刻にはまだ遠く、歩き回ったくらいならもう少しくらい起きていられる。だけど弁慶とのやり取りやからの無言の圧力をうけていた今日は精神的疲労が結構たまっていたりするのだ。だから休んでおきたい、というところが正直なところである。のろのろと這いずるようにして寝床へと向かうが着物の裾を掴んでは阻止しようとする。頼む、寝かせてくれよ。 「一人じゃ寝ちゃいそうでしょー」 「寝なよ」 「純情あっくんに抱きつくまではいや」 「せめて会うまではといっとけお前は」 相変わらずなに呆れてため息をついた。本当にこの子は自分の道を突き進んでいく。それでも周りにかける迷惑とか、突き進むことによって被る被害とか、そういう諸々のことを計算して楽しく面白くいけるギリギリの線までを計算して、人を怒らせるギリギリを見計らっているのだから怖い。全て仕方ないなぁ、で終わらせられるように仕向けている。自分の持ちうる能力と可愛さを把握しているし、それを最大限にそれを引き出す方法も知っているし、リスクを最小限に抑えるようにしている。いま思ったけど、よく友達でいられるな、自分。 ちらり、と視線をむければ無言で見上げてくる。長い付き合いだ。性格とか、自分がなにに弱いのかわかっているし、どこに沸点があるのかも分っている。それが友達に関しては突き抜けないことも知っている。しばらく無言の応酬をし、ため息をついて肩を落とせばは満足気に笑った。ちくしょう。結局はほだされるというか、本気で嫌だと思うことは突きつけないし、付き合ってしまうんだ。はぁ、とまたため息をついての隣に、は座らず追い越して戸に手をかけた。 「ちょっと顔でも洗ってくる」 「それでこそくん」 いまだにこにこと満足気に笑うに再度ため息をついて、戸をがらりと開ける。なんでこう、流されやすいかなぁ。もう性格だろうから、諦めるしかないのだろうか。あーぁ、と嘆息を漏らしさっきからため息が多いな、なんてどうでもいいことを思った。幸せが逃げていくなんて迷信でしょう。いや、でも、ここは神様が存在する世界だからもしかしたらってことがあるかもしれない。眠く重い頭で現実逃避にも似たような思考をぐるぐる巡らせて廊下を歩く。そして静かな夜にはうるさく響く喧騒に気づいた。なんだろう、と思いながらも歩みは止めずに何気なく庭へと視線を向けていれば木の陰から人がでてきた。ばちん、と目が合う。一瞬呆けてしまったが五感に入る情報と持ち前の知識を瞬時に照らし合わせて反転、踵を返す。走る。戻る。 「ちょっ――っ!!」 「騒がないでくれっ」 開けっ放しにしてある部屋に飛び込もうとした寸前で後ろから口を塞がれて後ろへと引かれ、拘束された。視界がぶれて自身を確認することはできなかったが、にはきっと見えていただろう。自分の姿を一瞬しか捉えられなかったかもしれないけど声は聞こえていただろうし、ていうかなら気づく。絶対気づく。 「頼む、静かにしていてくれ。悪いようにはしない」 耳元で聞こえてくる声に必死に頷いた。敦盛の息が耳にかかってこそばゆい。何気に力強くて、服を隔ててもわかるぐらいには締まっている体に顔が若干熱くなる。それと同時にやっぱり武家の出だもんな、とどこか納得もした。けど。やばい。画面の向こうにいた敦盛は可愛くて、さりげなく八葉最強だとか可愛い顔して一番男らしいとか、ぎゃあぎゃあ騒いでいたけど、こうも現実に、可笑しいことだけど触れ合って、生々しく敦盛から男を感じてしまって、恥ずかしい。というか、照れる。やばい。一切、本当にまじで恋愛経験ゼロな自分だから、やばい。恥ずかしい。慣れていない。 ちらり、と上に視線をむければ敦盛は門のほうに目をむけていて、険しい顔をしている。余裕がないんだろう。でなければ、こんな行動はできない、はずだ。何気に大胆なところがあるのはわかるが、普段ならば絶対に赤くなって早々に手を離すだろうから。手を繋ぐだけで困って赤くなってしまうから、敦盛は。なのに、素面でこんな、後ろから抱きしめるようなこと、できるはずがない。よほど余裕がないか、熱に浮かされているか、酒を飲まされたか、だろう。そう、いまは緊迫した状況なのだ。だから何をしている。恥ずかしがっている場合ではなく、早く敦盛を匿うのが先決だろうが。 手を離してくれれば、と思い、口元を抑えている腕を掴むが、やはり女の子のように柔らかくはなくて、しっかりと男の子の腕で、硬くて、無駄な筋肉のつきかたをしていなくて、さすがと思いつつ思わずときめいた。リアルに筋肉質フェチな自分だけどこんなときまで、なんて内心思わなくもない。咄嗟に手を離して、やっぱり男の子なんだなぁ、なんて思えば思うほど行動が取りにくくなっていく。体が硬直する。相変わらず顔が熱い。・・・あぁぁぁあどれだけ思考を逸らそうとも密着しているもんだからどうしても気になる。誰か、ちょっと、この状況を打開してください。そう切実に! 「騒がないで。憲兵が駆けつけちゃう」 息を呑むような気配がして、びくり、とした震えが直に伝わってきた。むりやり顔を上に向ければ敦盛と同じように、敦盛の口を塞いでいるがいる。天の助け!とばかりに喜色を浮かべる自分と目があえばににこりと微笑まれるが、気づいた。実に可愛らしい笑みに潜む黒い影。いやいや、ちょっと、待ってよ。動揺の色濃い敦盛よりも、焦る。 「音を立てないで。そのまま後ずさって。悩んでる暇なんかないからね」 そういってずるずると敦盛を部屋にひきずっていこうとするに、一瞬逡巡したようだが結局は大人しくいうことを聞くことにしたらしく(ていうかそれ以外道はないんだけど)、自分を抱えたまま後ずさる。そう、自分を、抱えた、まま。後ずさりにくかったのか腰に腕を回されて、密着度は増える。敦盛はそんなことに気づく余裕もない。ぎらり、と、自分を抱える人に気づかれないようにを睨めばしたり顔で笑んでいる。ちくしょう全てわかっていやがる。自分がこの状況を一刻も早く抜け出したいこととか、慣れていなくて恥ずかしくてなにも行動できないこととか、敦盛が余裕がなくていまの状況に気づいてないとか。助けに入る、というか行動を起こすタイミングが遅いな、なんて思っていれば、どうやったら面白く遊べるか謀っていやがったあの女。 さすがに怒気を含めて睨むがそ知らぬ顔で部屋の中まで連れ込み、戸から覗くようにして顔を出すもんだからやや上体倒される。口を塞いでいる敦盛も連動して倒されるもんだから抱えられている自分も上体は倒されるわけで、やはりより密着してしまうわけで。この女あぁぁぁぁぁあ!などと思いつつも体が動かない。何気に自分自身も密着できるような、というか抱きしめられるような体勢に持っていっているあたりが末恐ろしい。計算高い。あぁ本当になんで一番仲のいい友達なんだ。たまに真剣に思う。 もう恥ずかしいやら慣れないやら密着度やらでどうでもよくなってきた。うん、もういいや。どうにもならないし自分とが友達なのは腐れ縁ということで。そういうことにしておこう。ぐるぐると回りすぎた思考で行き着いたのはそんなもので、やっといつもの調子を取り戻した。なるようになるだろう。 「ねぇ、なんだか騒がしいみたいだけどどうした、の」 「え」 どうするかなぁ、なんてのんびり構えていれば覗いている廊下の反対側から声が聞こえてきて、視線を横に向ければ望美が立っていた。驚いて、眠そうに髪をかきあげた手を固まらせて、目を丸くしていた。いや、そりゃこんな、鏡餅みたいに重なり合っている光景なんて、驚くだろう。なにしてんのこの人たち、みたいな目でみられても可笑しくない。これにはも予想外だったようで、思わずもらした一言が心境を雄弁に語っていた。敦盛も驚いたような気配がしたけど、口をふさがれているし自分もふさがれているし、もごもご動かすに留まる。あ、やばい、こそばゆかったかも。 「・・・なに、してるの?」 「え、あ、うん、ちょっと、ね、うん」 まぁ普通の反応ですよね。普通にそう聞きますよね、奇妙な光景だから。とりあえず話せるのはしかいないのだからどうにかして、というかするしかない。巧みな話術ならどうにかなるでしょう。うん、どうにかして。 「あああああれだよ!いい男発見!!」 「え、?」 あ、本音がぽろり。 「じゃなくて、ほら、この人八葉じゃない?!」 「・・・なんで、わかったの?」 「いやいやいや顔見て顔!!」 本音がぽろり。そのに。 「顔・・・?」 「あ、え、そうじゃなく、て、」 思いのほか混乱しているは次々と怪しまれる要素を追加していった。うん、いや、本音が零れ落ちたに過ぎないのだけど。きゅ、と眉を寄せて怪訝そうな顔をしている望美に焦ったのか、わたわたするにあぁまだ年相応な一面があったのだな、となんとなく安心した。何歳だと思っていたんだとか責められそうなことではあるが、やはりそこはの性格のせいということにしておこう。うん、常々思うが末恐ろしい人だ。動きは封じられてやることもないしつらつらとそんなことを考えていれば騒がしい声や足音が近づいてくるのに気づいた。も望美も気づいたらしく、視線を一瞬だけ喧騒がする方向へとむけて空気が張り詰める。 「のんちゃん。この人匿いたいからあれ、なんとかして追い払って貰っていい?」 怪しさ全開で何も説明せずに直球で望美に頼むのかよ。 「うん、わかった。怪我もしてるみたいだし放っておけないよね」 いやいやいや頼まれちゃうのかよ神子様!敦盛とはいえ少しは人を疑いましょうよ神子様! さんたちが庇うなら平気だよね、と月並みではあるが花が咲かんばかりの笑みをにこりと浮かべて足早に去っていく望美の後姿を眺める。そしてそういえば望美が跳んでいて敦盛を知っていたらこの状況でも放置できるよな、と思いつき、もしかしたら跳んでいるのかもしれないという憶測に行き着いた。いや、大分前に跳んでいるとは踏んでいたけど。そうなると自分たちはかなりのイレキュラーであるけど、一番よくしてくれるし、望美の思うところはよくわからない。 あー焦った、といわんばかりにがため息をついていま手当てしますね、と敦盛から手を放し離れた。焦ったのはこっちも同じだ。一段落ついた、と体の力を抜いてため息をつく、が。そういえばまだ口も離して貰っていなかった。ずるり、とつい背中を預けてしまった敦盛を見上げれば今更ながらに真っ赤になって目を丸くしている敦盛と目があう。え、今更ですか。今更そんな反応するんですか。後ろ抱っこしておいて(というか硬直してかいまも現状維持なんだけど)そんな、本当に今更。連動して自分まで赤くなる。また、身動きが取れなくなった。 「私を放っておいてふたりでいい雰囲気にならないでくださいよ」 「っ!、す、すまない!私はこれにて、」 「怪我の手当てをまだしてませんからだめです」 「いや、しかし、」 「問答無用です。、とりあえず押さえつけといて」 「え、」 「は・や・く」 「おっけー!」 に声をかけられて弾かれたように身を離した敦盛はおろおろしつつも退散しようとするがそれをが許すはずもなく、押さえつけろという言葉と同時にむけられた笑みをみて我が身可愛さに敦盛にしがみついた。ごめんなさい、敦盛さん。私はまだ地獄を味わいたくありません。ぎゅう、と腰に抱きつき、戸惑うような気配を感じるが自分は自分で敦盛の細腰に感動する。本当に本気で細い。自分よりは確実に細いけどよりは細くないのはやはり男の人であるからか。それを考えるとまたなんだか恥ずかしいという気持ちが湧き上がってくるが敗北感のほうが大きかった。別に気にしているつもりもないが、なんだかやはり負けた気分になるのは仕方ないのだろう。一応、生物学上、女ではあるから。 「逃げようとしないでくださいよ。別に捕って喰おうとしているわけじゃないんですから」 「いや、しかし、私がここにいては、迷惑に、」 「追いかけてきた人はのんちゃん、さっきの彼女が追い払ってくれますから心配はいりません」 にこり、と笑って手際よく手当てしていく。依然しがみついたまま(離れるタイミングを逃した)いつの間にこの時代の手当ての仕方を覚えたんだ、と思うがまぁだから、の一言でなんだか片付くような気がして気にしないことにした。きっと自分がぼんやりしているときや一緒に行動していないときにでも教わったんだろう。何も四六時中一緒なわけでもないし。眠いなぁ、と欠伸をしつつも頭上で交わされる会話を右から左に流していると頬に当たる硬い感触に気づいた。触ってみたら丸く細い筒状のものだということがわかる。触れている指を滑らせれば振動が伝わってきて、視線を上げれば真っ赤で若干震えている敦盛と呆れたような視線が降ってきた。・・・なんかわたくし、痴漢かなにかになっていませんか。 「なにしてんの、あんたは」 「え、いや、なんか、頬に当たる筒状のものがあったからなんだか気になって、」 「そ、それはお返ししようとしていた笛、のこと、だろうか、」 なんだか怯えられているような敦盛の言葉で思い出した。そういえばそんなイベントだった。これは。うろ覚えな知識から引き出すに、確か笛をもらった人に返しに行く途中に見つかって逃げていたんだったか。兄が琵琶を返したから自分も返さなければならない、と。やっと気づいたのか馬鹿が、といわんばかりのの視線は放置しておいて、ずるりと敦盛の足の上に頭を置く。驚愕に染まって目を丸くしたり赤くなったりしている面々には悪いが眠気に負けた。本当に眠い。落ちそうな瞼を擦りながら逆に見える真っ赤な敦盛を見上げた。 「笛、吹くんだよね」 「あぁ、」 「なんで返そうとしてんの?」 「そ、それは、」 「別に返さなくてもよくない?」 ぎょっとした顔が視界に入るけど眠いながらに結構本気の言葉である。ゲーム中でも別に返さなくても、などとはよく思った。寂しそうだとか、そういうのじゃなく、敦盛に相応しいからこそあげたものじゃないのかとか、ふと思ったりした。だから返すのはその人の気持ちを踏みにじるとまではいかないけど、送り主を多少はがっかりさせてしまうものではないのか。 ぼんやりする視界と思考で、困惑の表情を浮かべている敦盛にいいたいことが伝わってないことに気づくけど眠気に負けそうだ。ちゃんと言葉にしないとわからないというのに。 「あー・・・だからさ、くれた人は、あんたに、似合う、というか、相応しい、というか、」 「・・・・・・」 「とにかくあげたかったから、あげたわけで、それを返す、のは・・・」 「・・・あ、あの、」 「・・・」 「・・・寝ちゃいました、ね」 目を閉じて寝息を立てるの頬をぱちん、と叩くが起きる様子もなく、眠いところをむりやり起きていたのだから限界がきたのだろうとため息をついた。普通こんなところで寝てしまうだろうか。常にマイペースなではあるが、たまにこういうところに驚かされる。だから飽きないのだけど。戸惑い、困ったように眉尻を下げる敦盛に手当ては終わりました、とだけ告げる。はっ、としたように礼をいう敦盛に憲兵が去ったとはいえ気をつけてくださいね、と言葉を返し、を引きずり落としながらごん、という大きな音に肩を揺らす敦盛には笑みを向けた。 「あ、そうそう。この子がいいたかったのって返さなくてもいいよ、ってことだと思います」 「・・・何故、そんなことを、」 「さぁ、私はこの子じゃないのでわかりませんが」 「・・・」 「それを無理に返す必要なんてない、ってことをいいたかったんじゃないんでしょうか」 「無理に・・・そんなことは、ない、が・・・」 懐にしまってあるのだろう笛を服の上から握り締め、俯き加減の敦盛はまるで何かに耐えるようだと思う。なにに、とはわからないけど。望美の台詞を引用するならば寂しさに、だろうか。そんなことを考えて自分で自分が気持ち悪くなる。キャラじゃない。結局は感情は本人にしかわからないのだから勝手に決め付けてはいけないだろう。とにかく、と言葉を続ける。 「私も、別に返さなくてもいいと思いますよ」 「そう、だろうか・・・」 「あなたが返したいなら止めはしませんけど。でも、その笛がすきなら持っているべきです」 まぁ私はもらえるものはもらっとけ主義なんだけど。 「すき、なら・・・?」 「はい。やはり大事に使ってくれる人が持つべきでしょう?笛なんて使わなきゃただの棒なんですから」 にこりと笑ってその笛とても大事そうにしているしょう?と敦盛に確信に満ちた問いかけをする。知識として知っているということもあるけど、目の前にして大事にしているということが存分に伝わってきた。だから、持っておくべきなんだろうと思う。敦盛はそうか、とだけ呟いて俯いた。 「・・・随分と長居をしてしまった」 「いえいえ、いつでもきてくださいよ。大歓迎です」 「いや、しかし、」 「あれ、帰るの?」 寝転がったままのがむくりと体を起こす。頭を打ったところを撫でながら瞼を擦り、起こしちゃった?とそ知らぬ顔で問いかければ寒くて起きた、と返された。 「んー・・・?あー・・・話が途中になってなかったっけ・・・」 「まぁなってたけど一応私が補完しておいたから」 「そうなんだ?とりあえず途中で寝ちゃってごめんなさい」 「い、いや、別に、構わない」 頭を下げればそんなことをいうが、不躾だったよなぁと視線を逸らしつつ居心地悪く頭をかいた。寝起きでいまだ睡魔に襲われている頭では思考がまわらない。とりあえず、補完してくれたとは聞いたがなにがいいたかったのか思い出して一応伝えておこうか。んー、と悩んでいる傍でそろそろ失礼する、とか、また会いましょうね、とかいって困惑する敦盛をにこにこ眺めているたちの会話が聞こえる。治療はすでに終わったのか。 「あー、と、ですね」 「・・・私になにか、あるのだろうか」 「あ、はい。に補完してもらったようですが、一応いいたかったことを伝えようかと、」 「まめというか真面目というか」 「だって言いかけたままじゃ気持ち悪いじゃん。補完ありがと、すまん」 呆れた笑みを浮べて溜め息混じりに呟くにそう言い返し、敦盛に向き直る。おどおどぢている姿が可愛いなぁ、とか思っている場合じゃなくて。 「その笛、持っていたほうがいいと思います」 「・・・、何故、そのようなことを」 「んー、と、贈り物をするってことは、あなたに持っていてもらいたくて、贈るわけですから、やはり持っていたほうがいいかと」 誰しもがそうとは限らないけど、自分はあげたいからあげるのであって、やはり持っていてもらいたいものではないだろうか。返されても気落ちするだけだ。どんな事情があろうと多少は。視線を下に向けて首裏を擦りながらなんだかやはり居心地が悪くて、何故だか敦盛をみれなかった。は当たり前のように傍観しているから助けを求めても無駄であるし。なんだか追い込まれた気分だ。 「・・・そうか。ならば、私はこれを持っていようと思う」 聞こえた言葉に顔をあげればにこり、と笑っていて。見とれてしまう自分にでは失礼する、と告げる敦盛に慌てて声をかけた。 「気をつけてください!またどこかで!」 「・・・あぁ、また、何処かで」 去り際に呟かれた言葉も笑顔つきで、敦盛が去った場所をずっと眺めていた。ひんやりとした夜風が気持ちいいから、きっと顔は赤い。というか真っ赤に近い。敦盛にも負けないくらい、赤いかもしれない。 「・・・みた?」 「抜かりなし。ちゃんと二回みた」 「・・・・・・なぁ」 「なによ」 「やっばいわ、自分、」 「みなまでいうな。私もやばい」 火照る頬をどうしようかと持て余しつつも、互いに赤い頬に笑いながら床についた。しかし、あれは、反則じゃないだろうか。画面越しにみたものより破壊力があった。あのでさえ赤面ものだったし。そのへんの女の子より可愛いなんて、素敵すぎる。いいもんみた、とそこまで考えたところで意識は睡魔に攫われた。 << >> (2007/08/11/) |