知っているからといってうまくいくはずもなく。


 六波羅への道は案外遠かった。というか、地理がわからず適当に歩いていたから遠くなったというほうが正しいのかもしれない。最終的にはゲームで得た知識なりなんなりを照り合わせたりしてたどり着いた。

「・・・さすがだね、
「まぁざっとこんなもんさ」

 もう、この友人には頭があがらない。
 呆れを通り越して感心してしまっている自分を引っ張り、は上手い具合にガラの悪そうな人を避けて六波羅を歩く。さりげなく周囲に隙なく目を配るはいつになく真剣で、目が本気だ。なんとなく敵にまわしたら厄介な部類だろうなぁと思った。いまではなくとも将来的に。
 いい加減引きずられるのも引きずるのも疲れるだろうと思って横に並び、いわれるまえに自分も周囲に視線を隙なくできる範囲で泳がせた。
 そして数時間後。


「ん」
「厭きた」
「まぁ、ねぇ・・・みつかんないし」

 わからなくもない。簡単に見つかるはずもないとは思っていたが、さすがに疲れた。六波羅という六波羅を練り歩いたのだから当たり前かもしれない。でも、これだけ探してもあの目立つ赤い少年の痕跡すらも見つけるには至らなかった。さすが身軽な熊野別当、やはり一筋縄ではいかない。
 疲労感を漂わせ不機嫌そうなに、一旦戻ろうか、と促して京邸へと帰る道を歩く。普段、あまり運動などしなかった足は酷く痛かった。下駄をはかなくてよかったと心底思う。

「ただいまー、って誰もいないんだっけ」
「もうすっかり我が家感覚だねこれ」
「いいんじゃね?ある意味我が家より楽しいし」
「いえてる」

 適当に話しながら、やっぱりに誘導されて与えられた部屋へとむかった。都合がいいことに二人部屋でいろいろとやりやすい。途中で台所によって湯飲みや急須を失敬し、丁度良く何故かお湯が沸かしてあるのを利用してお茶をいれる。むかし祖父や祖母に習っておいてよかった。
 自室へとついても中には入らず、二人並んで縁側に座ってお茶を飲み一息つく。

「あ、そういえばさ」
「なに?」
「のんちゃんたちから聞き出したことによると、あっくんのイベントとかまだだったよね」
「あぁ、そんな感じではあったかな」

 今日の雑談で得た情報を頭の中で並べていく。敦盛のイベントどころかヒノエもまだだったわけだし、たぶん他のイベントも上手くいけばまだだろうと推測される。

「じゃあ夜も張ろうか」
「そうだねー、・・・って、は?」
「あっくんも張るの」

 普通に、なんでもないことのようにいわれた言葉に普通に頷いてしまったがさりげなくいわれた言葉に短く、本当に心境をあらわす言葉を一言で問い返せば輝くような笑顔で、有無を言わさないような笑みではっきりといわれた。あの時思ったあの思いは将来的にではなくいまでも通用するかもしれない。お前は一体何者だ。
 反論する気も失せ、差し出された湯飲みにお茶を注ぐ。の中では決定事項となっているために反論したって無駄なのだ、実際。いや、でも本気で反論すればちゃんと考えて直してはくれる。だが、これぐらいで強く反対することもないだろう。夜は辛いかもしれないが敦盛にあえるのだ。朱雀組と同じ熊野育ちだというのに純情可憐、でも男らしいあの敦盛に。そう思うと渋りはするが反対できない。できるはずもない。
 思考を巡らせていると、いつの間にか空となった自分の湯飲みにもお茶を注ぎ、敦盛のイベント時間を思い出そうとする。夜ではあったが、そんなに夜中ではなかったはずだ。そう思いたい。寝起きの悪い低血圧な自分なのだから、睡眠時間はきっちりととっておきたいのが本音である。

ー」
「んー?」
「ごめんなさい」
「いきなりなによ」
「寝起き最悪だから、いまのうちに謝っとく」

 家族にはえらい苦労をかけたらしい寝起きの悪さにはさすがに自分も辟易としているのだ。それについて責められたのは一度や二度ではない。深々とため息をついてお茶をすする。太陽の高さからもう昼時だろうか。いや、体内時計からも考えてもうちょい手前かもしれない。

「ん、って神子一行についてく気満々?」
「なに当たり前のこといってんの」

 愚問だといわんばかりに返された。うん、まぁ実にらしい。

「だとしたらさ、行く先々怨霊祭りじゃん」
「あ」
「守られるだけなんて性にあわないだろ?」

 自分もも守られるだけなんて性にあわない。守られて、みてるだけ。なにもできない、なにもしない。自分を守るために誰かが傷つくなんて、悪いが殴りたくなるくらいいやだ。むしろ反吐がでる。
 はどう思っているか知らないが守られるのは好きじゃないと明言しているし、自分は肩を並べて一緒に歩くほうがいい。立っている場所がどこであれ、人の背中なんてみていたくない。

「武術か護身術習わないとなぁ・・・」
「そうだねぇ・・・」
「なにやる?」
「なにやろうか?」
「とりあえずはスピードとテクニック重視型?」
「じゃあはパワーとスピード重視型?」
「え、そんなに力強そう?」
「あっはいまさら」

 はにこにこと笑って気持ちよく言い切った。確かに普通の一般女子にしては力が強いかもしれないが男と張り合うほどには強くはない、はずだ。だから、そこまで、言い切られると、そう思い込んできた自分がなんだか悲しく感じる。
 影を背負い込んだ自分を無視してはお茶をすする。

「おなか減ったねー」
「・・・そだね」
「またおなか減ったの無視したでしょ」
「・・・そだね」
「じゃあご飯食べに出ようか」
「・・・そだね、え」
「お金は預かってるし使い方も習ったから大丈夫」

 ぬかりはない、といわんばかりに笑顔全開なチカは本当に頼りになると改めて、また、感心してしまった。
 六波羅を張り出して一日目はこんなもの。



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(2007/03/14/ 再録)