散策にでかけるのはいいのだけれど。


 この京邸には本当に昨日今日来たばかりらしい。情報を望美たちから引き出すために雑談に興じているの隣でいろいろ整理すれば、宇治川の戦いもついこの間だということだ。そこに居合わせた、というか望美と共に落ちてきたらしいが、そんな記憶など一切ない。最近の記憶など、お気に入りの新刊が手に入って喜んだり、旅行の予定を立てようとに家に泊まりにいったりしたぐらいだ。
 不思議なものだな、と、考えに耽っていると影が落ちてきて咄嗟に視線をあげた。

「・・・、なにその笑顔、」
「なにって、いくよ」

 妙に満面の笑みを浮かべているを不思議そうに眺めれば、腕を引かれて立たされる。いつの間にか井戸端会議のような雑談は解散されたらしく、部屋にはと自分しかいない。
 腕を引かれるままについていきはするがさっぱり状況は飲み込めなかった。この先は、確か玄関だったはず。また京散策でもするのかと、大人しく成されるがままに引きずられていれば丁度部屋から出てきた望美とばったり遭遇した。

「あ、さん達、いまからでかけるの?」
「うん、そー、のんちゃんは?」

 お前、のんちゃんなんて呼び方してんのか。

「いまから京散策もかねて九郎さんのところにいってくるんだ」
「あぁ、許可とりに?がんばってー」

 そして突っ込まないのか望美さん。

「うん、でも、九郎さんって頑固だからなぁ。あ、人待たせてるしまた後でねさん、さん」
「うん、またねぇ」

 そして望美はのことさん付けか。
 ばたばたと駆けて行く望美に手を振るにどこから突っ込めばいいのかわからず眺めていれば、さっきの雑談でそれなりに仲良くなったからと説明された。さん付けは年上だから、と望美のほうか譲らなかったらしい。

「・・・お前、相変わらずなのな」
「いまさらでしょ、

 本当にいまさらなのだが、さすがというか、なんとなく感心した。
 止めていた足を再び動かして庭伝いに縁側を歩き、玄関へと到着する。まだ間取りを覚えていないために迷ってしまうが、しっかりした友達がいると助かることこの上ない。は靴に、自分は用意してもらった下駄に履き替えた。

「あんたなんで下駄なのさ」
「散歩くらい下駄でいいじゃん。下駄すきだし」

 呆れるようにため息をついていうに、ただの散策でしょ、と重ねて問いかければまたため息をつかれた。

「甘いねくん」
「・・・はぁ?」
「もう一度状況を整理してみましょう」

 にやり、と、悪巧みを明らかにしてますよと、そんな笑みでそういわれて、戸惑いながらも雑談で得た情報を並べ考え直す。そしてこの友達の好き好きやらを考慮にいれてはじき出される答えは。

「・・・あんた、まさか」
「そう、そのまさか」

 にっこりと笑う友達はかわいいのだが、この下に隠された彼女の性質を忘れてはいけない。

「ヒノエくんを拉致・・・会うために六波羅を張ります」

 気づいたことを寸分の迷いなく心底楽しそうにいわれた言葉に、靴に履き替えることを余儀なくされたのだった。



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(2007/03/04/ 再録)