今後のことを少し話し適当に雑談し、お茶を何杯か飲み干していれば空はいつの間にか赤く染まっていた。朔に夕飯だと呼ばれて、まだ不慣れな屋敷を案内してもらう。自分たちが申し出たわけでもないのに案内してくれる朔はなんて優しいんだろう。後ろからついていく中で互いに親指を立てあったのは仕方ないことだと思う。 「譲殿、これでそろったかしら」 「えぇ、あなたたちで最後ですよ」 ご膳の並んだ部屋に入れば視線が突き刺さる。ていうか、心臓に悪い。思わず口元を押さえて俯いてしまったのはやはり仕方ないはずだ。だって、揃っている。ブラコンな総大将にシスコンな軍奉行。喰えない腹黒軍師に先輩マニアの料理人、忘れちゃいけない小さな龍神様も。そして。 ちら、と視線を上げれば不思議そうな顔をしている女の子。思ったより可愛くうつるその人は春日望美。見つめてくる大きな緑色の目に桃色の髪は違和感なく似合っている。なにより本当に可愛らしい。子供のころから惚れる譲の気持ちがわかった気がする。さすがヒロイン。 感慨深げに震え、一生懸命いろいろ堪えている自分の腕を引きずって、は朔に笑顔でこの人のことは気にしないでくださいとかいって席につかせてくれた。ありがとう、助かった。内心、やっぱり狂喜乱舞に似た心境だろうが表にはださず、冷静なが居てくれて本当に助かる。こんなところで、自分ひとりではやっていけない。 「さん、俯いてしまって気分でも悪いのですか?」 理性が打ち勝ち、落ち着いてきたところで隣から声をかけられた。視線をむければ間近にあの喰えない笑顔。頭は真っ白になり、見上げる顔はさぞかし間抜け面なんだろう。 「、どうしました?」 「っいえ、なんでも、っ」 軽く覗き込まれたところで思考は復活し、いままで生きてきた中で一番速いだろう速度で反対隣を見やればやりきったといわんばかりの笑顔で輝きに満ちているはさりげなく人差し指と中指を立てている。そう、ピース。あぁもう、そうだった、お前はそうやって人で遊ぶことがだいすきな人間だった。そのことをすっかり、忘れていた。 泣きそうにうなだれても全く反省した気配のないは、隣に座っている朔と談笑しながらご飯を食べている。ちくしょう、この仕打ちはなんだ。 「さん?」 やや心配がちの声が降ってきた。そういえばあまりの出来事に誤解を解くのを忘れていたのを思い出し、慌てて顔をあげて弁解する。意外と顔が近くて怯み、小さくうめいてしまったが構っていられない。というか、その、害のなさそうな顔でも面白がってる感満載な雰囲気はなんでしょうか。 「あ、いえ、あの、気分は悪くないです。むしろ最高、っていうか、あー、うん、大丈夫です、はい、全然」 弁慶の顔を直視できずに、視線を泳がせながら気持ち後ずさりながら弁明する。というかじりじり後ずさる。知ってか知らずか弁慶も後ずさったぶんだけ距離をつめた。本当ですか、とかほざきながらこの人、確実に楽しんでいる。楽しそうな胡散臭い笑顔が目に痛い。 「あの、だかっ、大丈夫なんで、」 「ですが、なんだか顔色が悪いようですよ?体調でも崩したのかな・・・」 「い、いえ、だから、平気です、って、」 あなたの顔がもろ好みなんです近づかないでください心臓が破裂しそうなんです。 なんていえるはずもなく。熱でも測る気だったのか伸びてきた手を咄嗟に掴んだ。掴んでからこれどうしよう、と悩むが、うわぁー弁慶さんの手掴んじゃってるよ自分いますげぇ幸せなんじゃねそうなんじゃね、と、喜んでいる自分がいたりする。相反する気持ちは自分を硬直させるしかなかった。 そんな自分に相変わらずにこにこと害のなさそうな笑顔を浮かべて弁慶は手を握り返してきた。思わず過剰反応してびくつく自分に、ついに噴出した弁慶は口元を押さえて笑っている。ついでに望美や譲までもが笑っている。 「す、すみません、あまりにも、君がかわいらしくて、」 「・・・面白かったの間違いじゃないですか」 気づけば視線が集中していたらしく、腹を抱えて笑っている人もいれば苦笑を浮かべている人と様々だったが、皆が皆笑っている。憮然と不機嫌そうに、しかし諦めたように低い声で答えて、とりあえず隣で爆笑しているチカにいい加減にしろと睨んでおいた。しかし腹を抱えて笑うだなんて望美さん、案外いい性格してますね。 の、お前幸せだったろ、といわんばかりの視線にはにっこり笑うことで答えて。 「」 「なにさ」 「覚えてろよ」 「ん?なんのこと?」 いけしゃあしゃあと笑顔で言い切るチカにため息をつきながらも、促されたご飯に手をつけた。 << >> (2007/03/04/ 再録) |