叩きつけられた現実に戸惑うしかないのだけど。


 すべてがこのメールから始まった。

『今度いく?』
『いきたい!!』


△▽△


 今年は暖冬なために二月でもまだ暖かかった。空はきれいな青で、白い雲との比較は格別見ごたえがある。ただ、太陽の光が暖かいが風が冷たいのが難点だった。しかし鼻水をすすりはするが去年に比べたらまだましというもの。去年は雪が吹雪いて大変だった。だから防寒具もつけるほどでもない今年の二月は酷く暖かいのだろう。雪も四、五日ほどしか降らなかった。
 そんな暖かいような寒空の下、の先導のもと適当な話をしながら歩く。
 先日、武家屋敷を発見したというメールをからもらい、丁度その類のものがすきな自分が飛びついたのだ。今度連れて行ってくれるという言葉に、みにいこう、と。タイミングよく遙かなる時空の中で3というゲームにもはまっていたことだし、とても食いつきがよかった。ましてや中を見れるような建物が多いとなれば喰らいつくに決まっている。むかしから純粋に歴史ものがすきで見たいとも思っていたから。

「そういえばこの間さ、クラスの友達に遙かやらせたら面白いっていってた」
「へぇー当たり前だよね。あ、ここだ」
「おお・・・!」

 確かに随分前にみた京屋敷のような壁だ。立派な門だ。もうこれだけで自分のテンションは右肩上がりで、少し呆れ気味な視線も全然気にならない。すまん、暴走したら止めてくれるとありがたい。

「本当に朔とかいないかなぁって思うわこりゃ!」
「でしょー?」
「ひょっこり顔をだして、」
「あら、おかえりなさい」
「そうそう、おかえりなさい、って、」
「え、」

 ひとり騒がしく盛り上がるテンションにをつき合わせていたら、涼やかな声が聞こえた。しかもいままさにいおうとした帰りを迎える言葉だ。ふたりで顔を突き合わせたまま硬直し、あまりのことに一瞬思考が停止する。屋敷のほうへと目をむけたいような、むけたくないような。だけどさっきの声はまさしく。いやしかし。そんなまさか。
 だらだらと汗は流れるし思考はひたすらぐるぐると巡る。も似たような状態のようで、目が合えば乾いた笑みを浮かべた。

「どうしたの?二人とも、散歩から帰ってきたんでしょう?」

 いっそのこと幻聴ということにしておこうかと、そんな考えを持ち始めたときに、至極不思議だといわんばかりの声音で問いかけられた。やはり間違いなく。幻聴でもなんでもなく。二人で意を決して屋敷へと振り向けば。

「・・・さ、朔、さん・・・?」
「あらいやだったら、いつもはさん付けしないででしょう?」

 そういってころころ笑う人は間違いなく、あの梶原朔だった。
 一体全体どういうことですか。

「え、ちょ、な、さ、」
「あ、ごめんごめん朔、ちょっとノリでねー」
「のり?」
「あのさんいたいんですけ、」
「そうそう、ノリ。それでね、が騒音撒き散らしながら散策してたら疲れたらしいからさ、とりあえず一息つかせてくれない?」

 あまりの混乱っぷりに言葉にならなかった自分を二回ほど殴って黙らせ、とりあえずが適当に話をあわせて朔に引き連れられてきた縁側へと腰を下ろした。小鳥のさえずり、手入れが行き届いている庭。しばし呆然としつつもそれらを眺め、まずは痛かったと訴えてみたがに笑顔で軽くスルーされた。まぁよくされるから慣れたもので溜め息をひとつ零し、殴られたことによって少しは落ち着いた頭で、ゆっくりと周りを観察してみる。見たことのあるきれいに整えられた庭、部屋、風景。はじき出される結論からいえば、どうやらここは梶原邸らしい、という推測がぬけない考え。
 しかしどうみても庭はゲーム中のスチルっぽいし、なにより内装が京邸だ。たぶん。朔に呼ばれる前にちらりと垣間見た内装とは違っているし、おそらくこの考えはあっていはいるだろうとは思う。
 だけど、何故こんなことに?朔がだしてくれたお茶をすすりながら考える。いつの間にか服は着物に変わっているし、どうやらが聞き出したことに寄れば自分たちは白龍の神子とともに現れたことになっているらしい。そしていまは京散策とかででかけていたとか。

「なぁ、
「なにさ
「わけわからん」
「大丈夫、あたしもだ」

 二人でお茶をすすりながら唸る。何が原因でこうなったのか皆目見当がつかない。それはも同じなようで、もうどこか諦めたような雰囲気が隣から漂い始めていた。

「ん、あ、ねぇ、ちょっと
「なんだよ
「・・・鼻歌聞こえない?」
「・・・まさか、」

 そんなはず、いやいや、うん、でもこの状況ならありえなくもない。乾いた笑みを浮かべるを横目で眺めつつ、お茶を飲みながらも恐る恐る耳を澄ませて見る。まさか、そんな、ねぇ。

「・・・きこえます」
「・・・だよね」
「ってか近づいて、」
「あっれー?ちゃんにちゃん、もう帰ってたの?」

 丁度よく縁側の曲がり角の向こうから現れた人は機嫌よさそうに白い洗濯物を抱えている。頬が引きつりお茶を落としかけそうになるがなんとか気合で持ちこたえた。

「か、景時さん・・・」
「ん?なんだいちゃん」
「あ、いや、その・・・、機嫌、よさそうですね・・・」

 鼻歌を歌いながら現れた景時さんは眩しい笑顔を振りまきながら、そうだねぇ、とひたすら笑顔だ。自分より近い位置でそれを見上げているはあまり表情を変えていない。たぶん、内心眼福とかなんとか思っているだろうが、それを表情にださないところはさすがというかなんというか。

「今日は天気がいいし、洗濯日和だからね」
「はぁ、それで、ですか」
「そうそう、ついついはりきっちゃうんだよ〜」

 じゃぁ洗濯の途中だから、と、景時さんはどこかへとやはり鼻歌を歌いながら去っていった。その後姿を見送り、冷めてしまったお茶を口につける。小鳥の鳴き声や互いのお茶のすする音が聞こえる。

「なぁ、
「なにさ、
「自分、しばらくここにいてもいいかも」
「あたしも」




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(2007/03/04/ 再録)