愛してる。愛してる。愛してる愛してる愛してる。あなた様が私のことを捨て駒だと思っていても認識していてもいわれても愛している。このような私を必要だといってくださったあなた様を愛している。
 だから私はあなた様の剣となりましょう。盾となりましょう。
 それが唯一できる私の恩返し。愛の形。あなた様のためならば誰でも裏切ってみせましょう。殺してみせましょう。切り捨ててみせましょう。
 全てはあなた様のために。



***



 にこりと笑って剣を構える。青ざめる九郎など知らない。泣きそうになっている望美など知らない。動揺する敵など知らない。

「ど、して」
「どうして?何故そんなこと聞くの?」
「だって、な、かま、だった、でしょ、?」
「いつ?誰が?誰の?なんの仲間?」

 可笑しくて仕方ないといわんばかりに声を張り上げて笑えば望美はさらに青ざめて押し黙った。それを庇うかのように九郎が一歩前へとでて睨みつけてくる。それさえも差しあたって問題がないかのように笑い続けた。

「あーおっかしー。望美、あんた、私のこと仲間だとか思ってたんだ?」
「だって、そう、でしょ?一緒に暮らして戦って、過ごしてきたじゃない!」
「そんなの探りいれるために決まってんじゃん。馬鹿だね望美は」

 引きつる顔。浮かぶ涙。庇護欲をそそられつつも背中を預けたくなるその姿は戦場に生きる人として、女として羨ましいとか思うけど、女などという概念はとうに捨てた。私はあの人のための剣。あの人だけの盾。あの人が全て。あの人の為に生きる捨て駒。これが私の愛の形。

「頼朝様が神子一行に探りをいれろとおっしゃったんだ。そのための手段に過ぎないのに感傷なんてもってのほかでしょうに」
「なんで・・・どうして・・・」
「望美はそればっかだなぁ、要領が得ない」
「頼朝は政子さんを、自分を慕ってくれる人を利用するような人だよ!実の弟を殺せとか命令しちゃう人なんだよ!!」
「それが?」

 相変わらずへらへら笑って切り捨てた。望美は泣くのを我慢するかのように顔が歪んでいる。

「そのお達しが私に下されたのだからこうしてここに立っている。わかってる?」
「・・・っ」
「大体九郎もそうだけど、望美、あんたも脅威なんだよ。頼朝様にとって。派手に立ち回りすぎたね。残念」

 にへ、と笑って剣を向けた。殺気がむけられているというのにいまだに剣を構えようとしない望美と九郎に笑いが禁じえない。最初から仲間でもなんでもなかったっていうのに、そこまで私を思ってくれているのかと思うと笑える。裏切り者なのに。感傷に浸るべきじゃないだろうに。そこの軍師のように。

「なんで、どうして・・・護りたかった、だけなのに」
「何を?京を?民衆を?違うでしょう?望美はそこにいる人たちを、護りたかっただけでしょう?」

 俯いて涙を流す望美に問いかける。まるでその護りたかったものに私が含まれているかのようなことをいう望美を切り捨てる。だって私にとって神子一行など標的にすぎず、そんな馴れ合いなど求めてなかったから。

「望美、お前は危険なんだよ。結果的に平家を滅ぼし源氏に軍配があがったけど、もしお前の護りたい人が平家にいたら?お前、例え怨霊を封じなければならないとしても平家を潰せることができたか?」
「っ、」
「頼朝様はお前と違って大衆のことをお考えになっている。政子さまのことも、大衆を思ってのことだ。政子さまはそれを承知して受け入れられたんだ。個人の感情で特定の人を護りたいなどと願うお前に頼朝様を愚弄する権利すらない」

 浮べていた笑顔を引っ込めて、顔を引き締める。さすがに本気とみたのか九郎は太刀を抜くけど、抜くだけだった。どこまで腑抜けなのか。本当にあの人の弟なのか疑いたくなる。

「・・・戦わなきゃ、だめなの?」
「お前が私を殺さなきゃ私がお前らを殺すだけだね」
「・・・一緒に過ごした時間は、嘘だったの?あの言葉も、探りをいれる手段でしかなかったの?」
「だとしたら?」
「ひ、ぅっ、・・・なんで、どうして、は・・・!」
「本当、そればっかりだな、望美は」

 呆れたように溜め息をついた。これだけ殺気をむけているというのに望美は構えもしなし、剣すら抜かない。白けたように再度溜め息をついて、頭をかいた。

「なんで頼朝なんかに、」
「愛してるから」

 目を丸くして上げられた顔が涙でぐちゃぐちゃだったのに笑いそうになった。そんなに意外なことだったのか九郎まで目を丸くして呆けている。

「愛してるから。愛してるから。愛してるから。それ以上理由がいる?」

 あの人だけが必要としてくれた。あの人だけが名前を呼んでくれた。あの人だけが本当のことを教えてくれた。あの人だけが、真っ向から向き合ってくれた。たとえそれが私を駒にする手段だったとしても。たとえそれが感情の一切ない論理的な考えの元からされたことでも。それでも、私をみてくれた、それだけでいい。それだけで私の全てを捧げるに値する。
 緩く笑んだまま、いまだに呆けている神子一行に剣を構えなおした。

「覚悟はいい?私の愛する頼朝様のため、死んでください」




私は私の大切な人のために、私の世界のために戦う





「あぁ、でも、望美たちと過ごした日々は、捨てるには惜しいなんて、少し思った、よ」

 血と共に吐き出された言葉に、落ちてくる雫の量が増えて手を握る望美の力が強くなった気がした。









頼朝ヒロイン。めちゃ私情に走ってるけど望美もめちゃ私情だよねっていう話。なのかな。


(2007/11/18)