私生活には困らない程度に、何故かラビに知識を教えて貰いながらこの世界にきて数日。持ち上がった話はこう。

「アレンの師匠は?」

 丁度師匠がつくだの云々の話を聞いていて、その場に居たアレンにも聞いてみただけだった。それなのに大袈裟に肩を揺らして青ざめるアレンはどこか震えていて、ちょっと泣かせたい気分になったけど我慢した自分は偉いと思う。
 何事だとラビに視線をむけても仕方ないようなあきれたような視線をアレンに送っているだけであるし、リナリーも似たり寄ったりな感じで長い髪を揺らしながらコーヒーを手渡してくれた。お礼をいって一口飲めば注文通りいれてくれているようでほんのり甘くて美味しかった。人からいわせれば甘すぎるとのことだが放っておけと殴りたい。

「クロス元帥はね、ここをでていったきり戻ってこないの」
「え、家出?大の大人が?」
「そういう人なんさ」
「はぁー」
「んで行方も巧妙にくらませてるからみつけることもなかなかできていないわけよ」
「あ、探そっか?」
「え」
「は?」
「ん?」

 いや、なにもそんなに驚かなくても。見つけることができないっていうから探そうかといってみただけなのに。そんなに驚くようなことなのだろうか。目を丸くしてむけられる視線に居心地が悪くて視線を泳がせる。探すことがそんなにまずいことなのだろうかいやそんなことはないだろう、だって行方不明者を探すのだから普通は歓迎されたもののはずだ。どうしてこんな反応なんだ。
 対処に困っているとラビが身をのりだしてきて肩をつかまれた。アレンはその後ろで鬼気迫らん勢いで少し怖い。

「ま、まじで?!」
さん、師匠はなかなか尻尾をつかませない狸なんですよ!」
「目撃情報もないのに無謀だと思うよ」
「いや、うん、でも、アレンの師匠が身に着けてたのとかあれば、なんとか、つれてくることもできるけど、」
「そんなもんでできたら苦労してねぇんだよ」

 あまりの勢いに尻込んでいるとどこからか神田の声が聞こえて思わず剣呑な視線を送ってしまう。条件反射となってしまったこれはいつになったら直るのか、リナリーに毎度毎度心配させたくないのだが。ずかずかと入ってくる神田を軽く睨みながら任務お疲れ様、とだけ声をかけた。

「あんたたちにはできなくても自分にはできるんだっつの。じゃなきゃこんなこといわねぇー」
「ぁあ?そんなもんで元帥を探し出せるなんざどう考えたって可笑しいだろうが」
「うっせぇーな目の前でやってやるからアレンの師匠が身に着けてたもんもってこいよパッツン」
「なんで俺が持ってこなきゃいけねぇんだよドチビ」
「そのくらい動けよアホ」
「はいはい二人ともそのくらいにして!いまリナリーが取りにいってくれてるからさ、それ待つさ」
「ちっ」
「リナリーがいくなら自分もいったのにー」
さん、リナリーすきですよね・・・」
「うん、可愛いし
」 「リナリーも可愛いけどもかわい、」
「ラビうぜぇ」

 さり気なく肩に回された手をつねっている間にリナリーが戻ってきて本やらノートやらが広げ散らかしてある机の上に広げた。もちろんアレンが素早く片付けてから、である。気が利く男はいいね、すきだ。
 頭をなでてやれば僕子供じゃありませんって反抗された。お前可愛いな。笑って最後に一撫でして机に向き直る。

「これ、手紙?」
「うん、アレン君がここにきたときに発見された紹介状なんだけど、これでも大丈夫?」
「これアレンの師匠の直筆だろ?平気平気。そこ、集中するから静かにな」

 後ろでごちゃごちゃと遠い目をしながら話しているアレンと慰めているラビに釘をさしてから手紙の文字を確認し、目を閉じる。そこに残る僅かな痕跡。元帥の波動。探れ。集中しろ。掴み取れ。
 ぶわり、と風が舞うように髪がなびき、手紙が淡く光りだす。眩しくはないその光にてらされながらも手紙に残る微かな痕跡に神経を集中させ、魔力を研ぎ澄ませる。ある種の幻想的な光景に目を奪われ息を呑んでいる周りには気づかない。探ることだけに全身全霊をかけている。それほどにみつからない、痕跡を残さない人物だった。あぁ、でも。

「みつけた」

 ばちん、と目を開けたときにはすでに違う空間だった。

「・・・おい、てめぇ、どこからきた」
「黒の教団から、クロス元帥。あなたを探しにきました」

 にっこり笑えば元帥も面白そうに笑った。



***



「ひぎゃあぁぁぁあぁぁぁあああ」  究極に焦った転移だったから座標があっているかわからなかったけど間違ってはいないようで、叫び声と同時にラビの上に落下する。混乱していたようだけどうまいこと受け止めてくれるあたりさすがとしかいい様がない。涙目で、半笑いでがくがくと震えていたら慌てて傍にきてくれたリナリーたちが心配そうに声をかけてくれた。アレンはどこか、哀愁を漂わせているから気づいているのかもしれない。お前の師匠ってなんなんだよ。
 なにかやばいとでも思ったのかラビは無理やり顔を上向かせて覗き込んでくる。

「おい、どうしたんさ!」
「ラビィ・・・」
「ん?」
「あんたのほうが全然ましだったああぁぁぁぁあぁああ!!」
「はあぁあ?!」

 そう叫んで抱きつけば抱きとめてくれるものの、混乱したままらしく「え、なになになんなのさ?!」といっているのが聞こえたけど構わずぎゅうと抱きつく手を強めた。呆れたようなアレンが溜め息交じりに口を開く。

「師匠のことです。どうせ口説かれでもしたんでしょう」
「ぁあ?ガキも相手すんのかモヤシの師匠は」
「モヤシじゃありません。さんはリナリーと同い年ぐらいでしょう?師匠にとっては十分です」

 後ろで剣呑にされる説明に肩を跳ねさせていれば信憑性が増したらしく、ラビが背中を叩くなりなでるなりしてあやしてくれた。子供じみた行為であったがいまはそれがありがたい。死ぬほど怖気がたった。精神的ダメージは半端ない。

「あぁぁああぁぁああもう気持ち悪い気持ち悪いあの色魔あぁぁぁああぁ」
「・・・大分きてますね」
「大丈夫?
「大丈夫っていいたけどそれは無理だわリナリー。アレン!!」
「ぅえっはい?!」
「てめぇの師匠タラシなら先にいっとけよボケエエェェェェエェェエ」
「ご、ごめんなさい!!」
「抱きついて面といえてねぇてめぇのなんざ怖くねぇぞ」
「まぁまぁ傷心なんだか、」
「神田にわかるかこの気持ちが!!」
「わかるわけねぇだろ」
「じゃ想像!お前アレンに口説かれてみろ!!殺したくなるぜ!!!」
「ぅげぇ」
「あ、アレンくん」
「気色わりぃこというんじゃねぇよドチビ!!!」
「ちょっユウ!六幻構えんな!!」
「少しはわかっただろうがあぁぁぁぁあああぁあ!!」

 こうしてアレンの師匠であるクロス元帥を探し当てはしたが連れ戻すことはできなかった。





(2007/10/30)