とりあえずいろいろ説明してみた。面倒だったからいろいろ省いたけど。そんなわけで自分は今日からここでお世話になるらしい。いく当てもないけど世界事情を教えて貰ったから旅して歩いても良かったのだが、この力を黒の教団で使って欲しいとのことだった。渋ったけどお金になるのならば仕方ない、というか稼がないとこの世界はやってられない。敵を倒してお金を稼ぐだなんてファンタジーな世界だけでのことだ。まぁその世界に所属していたわけだけど。
 しかし自分でいうのもなんだけど波乱万丈な人生だと思う。紋章に見初められて百万世界へいき、そこでいろいろ巻き込まれてみれば今度は生まれた世界と酷似した世界に落とされた。聞く話に寄ればたぶん十九世紀ぐらい。しかもノアの方舟だのなんだの、それ、神話じゃなかっただろうか。面白い世界にきたもんだ。面白がってもいられないんだけど。テッドは元気かなぁ。

「んじゃ今日からよろしくしようってのに睨みきかせてくれないかな、神田」
「気安く呼ぶんじゃねぇ」

 よろしく、と声をかけられながら握手を交わして思考を飛ばしていたら最後に残った神田には相変わらず殺気をむけられたまま、改善されていない。ぴりぴりした殺気を向けられて呑気に思考を飛ばせるような馬鹿ではない。コムイに視線をむければこれが神田くんなんだよと笑ってコーヒーをいれだすものだから呆れながらも頼んでみた。今度は砂糖三つくらい入れて、とか付け足して。周りが少し驚きながら騒いでいるのを笑ってみていると、それが気に喰わなかったのか神田からの殺気が強くなった。思わず反応して気づいたときには愛刀である小太刀は腰にはなく、だん、と突き刺さる音が大きく響く。
 目を丸くする神田。静まり返る室内。やっちまった。罰が悪そうに頭を掻き毟っている音が妙に大きく聞こえた。

「あーだからもう殺気だすなっていったじゃん」
ちゃん・・・?」
「コムイさんー、ごめん、もう少しで殺すところだった」

 溜め息をつきながら謝れば頬が引きつったのがわかった。さすがに驚いたか。突き刺さった愛刀を本棚から引き抜いて鞘に収める。神田に一言詫びればじろりと睨まれた。全く、気に喰わないというかいい加減面倒というか。

「てめぇ・・・」
「最初にどうにかしろっていったじゃん。忠告きかなかったのはそっちのほう」
「お前、何者だ」
「もういった」
「あの身のこなしで納得できると思ってんのか?」
「でもそれ以上でも以下でもない。自分はいく当てもない旅人で、それなりの護身術を身に着けてなければ旅なんてできない世界の出身だった。ただそんだけだっつの」
「それだけにみえねぇから聞いてんだろ」
「くどい」
「吐け」

 今度は神田と自分の間に火花が散る。周りは止めようにも止められたもんじゃないと判断したようで傍観体勢に入りつつあった。頼むからこいつ止めてよ。まじで。うざい。

「大体うさんくせぇんだよてめぇは。別世界の人間だなんざ簡単に信じられるか」
「はぁ?人が親切にも正直に話してやってんのにそれはないんじゃないの?信じる信じないは別にいいけど殺気しまえってんだよ」
「怪しいやつは警戒して当然だろ」
「知らんけどここで世話になることになったんだから少しは譲歩しやがれパッツン」
「世話になるぐらいなら帰れドチビ」
「話聞いてたのかよどうやってきたのかもわかんねぇんだから帰れねぇいうただろうが帰れたら帰ってるっつーのボケ」
「まぁまぁそのくらいにしとけさ、お二人さん」

 睨みあいながらメンチをきる神田と自分の間に初めて割って入った声に視線を向ければ、困ったように笑っている男が入り口付近の壁に寄りかかっていた。こいつも気に入らない。

「こそこそ覗いてないで入ってこいよ、お前」
「気づいてたんさ?」
「当たり前。そんな興味津々な視線に気づかないほうが可笑しい」

 吐き捨てるようにいえばへらりと笑う男はラビと名乗った。ウサギみたいな名前だ。こいつがウサギ。へぇー。剣呑な心境を吹き飛ばすかのように笑いたかったけどさすがに堪えた。近づいてきたラビと握手して頭をぽんぽん叩かれたけどこれは子ども扱いされたのだろうか。こんな年下に。外見年齢からすれば、仕方ないのかもしれないが複雑なものだ。
「ユウー、新入りにそんな態度は嫌われるちまうさ」
「名前で呼ぶな」
「安心してもう嫌ってる」
「みてて思ったけど、意外というねー」
「普通じゃない?」

 しれっといえばラビは笑ってさり気なく神田と距離をとらせた。一触即発な雰囲気だったから適切な処置とは思うけど、さり気なく笑ってやるあたりはなかなか腹黒いような気がする、こいつは。見上げていればにこっと笑われたので笑い返した。

「普通どころか最悪だろ」
「あんたよりはまし。不審人物だからってどぎつい殺気ぶつけないしー」
「ぁあ?」
「んだよ文句あんの?」
「落ち着けってお二人さん」

 そうして、神田とひたすらぶつかって今日が終わった。

「コムイさん、二人を放っておいていいんですか?」
「いーのいーのアレン君、あれは二人なりのコミュニケー」
「「気色悪いこといってんじゃねぇぞそこ」」
「仲良くなったね」
「いやぁぁあぁぁぁあリナリーそんなこといわないでぇぇぇええぇえ」
「随分嫌われたもんさ、ユウ」
「ハッ、お互い様だ」





(2007/10/29)