最近可笑しいことばかりだ。ある特定の条件において息切れを催し動悸は激しくなりいてもたってもいられなくなる。どうにも我慢できなくなってさり気なく走り去ろうとするときに限ってやつにみつかるんだ。いくら忍者を目指しているからといって感情の起伏を抑えるのにも限度がある。この間なんか顔が赤いとかで熱を測られ卒倒しかかったんだ。でも私にだって意地や誇りというものがある。さり気なく手を外して不自然でないようにその場を離れたんだ。まぁその後しばらくは息切れはするし動悸もあり得ないほど活発に元気に脈打ってくれたしふらふらののぼせた状態だったわけだ。おかげで偶然通りかかった不運委員長に医務室へと連行されたよ。まぁしばらく寝かされて何かに気付いたらしい不運委員長に退室を命じられたけどね。去り際に何故だかがんばってね、とか言われたんだが、これどう思う?

「・・・あのな、一つ聞いていいか?」
「なんだよ鉢屋。私が聞いてるのに」
「いいから」
「はいはい。なに?」
「・・・、・・・惚気か?」
「相談だといったはずだけど?」

 じろり、と半眼で視線を寄越してくる鉢屋には間髪いれずにそう返した。深くため息をついていまにも頭を抱えんばかりの鉢屋を無視して団子を頬張る。あぁおいしい。

「話をまとめると、だ」
「うん」
「八左を見たり話したりすると動悸息切れ挙動不審になる、と」
「そうそう。そうなんだ。なんで竹谷をみてそうなるのか不思議でさー。もう病気なのかと思うわけよー」

 相変わらず呆れた顔でそういう鉢屋にびしっと竹串で指差せば叩き落された。いや、危なかったかもしれないけどそれはないだろう。いくらなんでも加減というものを私は知っている。
 とにかく危惧していることを神妙に語りかけてみればやってられないとばかりに鼻で笑われた。なにその対応。

「人が前代未聞な正体不明の病気にかかったかもしれないって悩んでるっていうに酷くない?善法寺先輩もそんな対応だったしさ。みんな酷くない?ねぇ」
「そんなことねぇよ。それに珍しくないし」
「え?そうなの?じゃあ鉢屋はこれ、なんなのかわかる?」
「まぁな」
「教えてよ!おかげで授業にならなくて久々知にも迷惑かけてるんだから」
「病気だよ」

 割と深刻そうに眉を寄せて鉢屋の胸倉を掴む勢いで問い詰めたらさらりとそういわれた。思わず目を丸くしてへ?と妙な声をだしてしまった。病気。病気。やっぱり、病気なのか。今度こそ胸倉を掴んで引き寄せた。

「ぅわ」
「病気なら治し方あるよね?教えてっつか教えろ」
「なにその顔ー、おねぇさんってばこわーい」
「怖がってないだろうにお前は」

 笑顔で詰め寄ればやはり鼻で笑ってあしらいやがった。鉢屋にとってはどうでもいいことかもしれないが私にとってはとても深刻なことなのだ。相変わらず酷いったらありゃしない。ぎり、と胸倉を掴む手に力が篭った。それに気付いたらしい鉢屋は深くため息をつく。

「頼むからさ、教えてよ」
「・・・悪いが、その役目は俺じゃない」
「なにそ、」

 れ、と続くはずの言葉は遮られた。顔の横から突如現れた腕によって後ろへと引き寄せられ、絡まる腕に拘束される。背中は誰かの預ける状態となりぎゅう、と後ろから抱きしめられるが一体誰なのかは混乱した頭では判別はつかなかった。

「三郎、近い」

 聞こえてきた声に目を見開く。一瞬にして混乱した頭は思考停止し、かっと顔が熱くなる。そんな、まさか。目の前の鉢屋が口角をあげてからかうように笑った。

「悪いな、八左。そう怖い顔するなよ」
「別にこわかねぇし」
「まぁ確かにいつも通りの笑顔ではあるな」
「んで?二人でなにしてたんだ?」

 とん、と竹谷の顎が頭の上に乗る。それだけで心臓の動きが恐ろしいほど加速して本気で死ぬんじゃないだろうか。あぁもうなにこれ本気で死ぬ!

「別に手はだしてないから安心しろよ。俺の本命は別にいるしー」
「知ってる。でも男ってそういうもんだろ」
「はいはい。さて、八左の大胆な行動とここまで意味深な話をしたんだから少しは気付いただろ、・・・って」
「あ?どうした?」

 目の前の鉢屋は目を丸くして呆れている。意味深な話ってなに。鉢屋の本命ぐらい知ってる。でもいまはそれ関係ないでしょう?大体なんで抱きつかれているのかいまだによくわからないのだけど。
 眉尻を下げてひたすら鉢屋をみつめていれば、何を思ったか鉢屋は手を伸ばしてきて、顎を支えるようにして掴んだ。そのまま上へと持ち上げられ、自動的に私の顔も上を向く。竹谷は咄嗟に乗せていた顎を持ち上げて距離を取ったらしいが、それでも物凄い近くに竹谷の、竹谷の顔がある。吐息がかかりあうほどに近いそれにどうすることもできずにただひたすらに固まった。目が合えば竹谷は驚いたように目を丸くし、私の顔は熱が急上昇するし、なんていうか、あり得ない。なにしくさってくれてんだ鉢屋あぁぁああああ!!!

・・・、真っ赤なんだけど」
「あ、ぅ、そ、れは、」
「っぶは!」
「鉢屋あぁあぁぁああてめぇぶっ殺す!!」

 噴出した鉢屋にそう叫んで竹谷の腕から逃れようとすれば抱きしめられて阻止された。立ち上がりかけ前へと移動させた重心はまた後ろへと戻り、ぽすり、と再び竹谷に背中を預ける状態となる。腰に回った腕はそう簡単に外れそうにもない。むしろきつく力を込めて後ろから抱き込まれているために、脱出など不可能だった。

「たたた竹谷さん!」
「なに?」
「いや私が聞きたい!何事ですか!は、離してください!」
「やだー」

 そういって肩に頬ずりして良い匂いするな、なんてほざくもんだからいよいよどうすればいいのかわからなくなって硬直してしまった。鉢屋は腹を抱えて笑っているし、竹谷は離してくれそうにもないし、一体どうすれば、どうすればいいんだ!

「不破あぁぁあ!久々知いぃぃいい!助けてえぇぇえー!!」

 きっとこいつら私を殺す気だ!!