別にいいよ。 私の基本姿勢はこれだ。嫌なことは嫌だとははっきりいうけど、別にいいか、と大抵思って許してしまうから三郎あたりに甘いんだよとかなんとかよく言われてしまう。いや、だから別にいいんだって。理解してくれなくてもいいけど。 「ごめん、いけなくなっちゃった」 「また?」 呆れたような声を出すと、目の前の彼女は情けなく眉尻を下げて泣きそうな顔をする。そんな顔をするくらいなら約束は守れるようにしたらいいのに。気付かれないようため息をついた。 「あんたのことだから課題が終わってない、もしくは補習でしょ」 「よ、よくお分かりで…」 「そりゃねぇ」 君は単純ですから。 「ま、別にいいけど」 「ごめんなさい…」 「…甘味処は逃げないし、また今度いこうよ」 「!、うん!」 ため息混じりの言葉にうなだれていた彼女は顔を輝かせて、本当に嬉しそうに笑う。これだから何度約束を反故されようと許してしまうんだよなぁ。他意はないと知っているし。腕をぶんぶん振って走り去る彼女に軽く手を振り返し、急に空いた午後の予定をどうするかと息を吐いた。 「ところで三郎はいつから盗み聞きが趣味になったんだ?」 「人聞き悪いこというなよ」 彼女を見送った方向を向いたままそう言い放てば、すぐ隣の木から三郎が逆さまになって現れた。横目で眺めつつ、ため息をつく。 「あーぁ、午後の予定は潰れるし三郎には会うし、良いことないなぁ」 「失礼だな」 軽い動作で地面に降り立った三郎は眉を寄せて見上げてくる。それを受け流して空を見上げた。本当、どうしようか。 「…お前、いい加減やめろよ」 「なにが?」 「別にいいとか、良くないだろ」 「別に」 否定された言葉で否定を重ねた。空は今日も青い。ゆっくりと歩き始めても傍にある三郎の気配は消えなかった。 「だって楽しみにしてたんだろ」 「久々の外出だったからね」 「しかも前々からの約束だ」 「そうだね」 「課題とか補習とか、どうにでもできただろ」 「そうかもな」 追いかけてくる三郎の言葉に適当に答えて歩く。それが気に入らなかったのか腕を掴まれた。振り向けば機嫌の悪そうな顔。 「今日のためにあの課題を終わらせたのに、良くないだろ」 あぁ、そういうことか。つい笑いがこみ上げて声を漏らせば、握られる力が強くなった。 「ははっ、痛いよ三郎」 「笑い事じゃないっつの」 「笑い事じゃないね」 「笑ってる」 「そうだね」 三郎は意味が分からんといわんばりに深くため息をついた。わからなくて結構。私だけが気づいていればいいよ。私たちだけが。いまは。 「私は、別にいいんだよ。このくらい」 「…でもなぁ、」 「会えなくなるわけじゃない」 「…」 「さて三郎」 「なんだよ」 「これから暇?私、甘いもの食べたいんだよね」 「…仕方ねぇなぁ」 にこり、と笑って言えば三郎は目を丸くして、笑った。それをみて私も笑う。 ねぇ三郎。別にいいんだよ、みんな笑ってくれてれば。 「んじゃ町にでもいくか」 「やったー三郎のおごりね!」 「誰がそんなこといった」 そのためにはさしたる問題じゃないんだ。
あぁでも、その不器用な優しさは嬉しく想うよ
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