泣きたい泣きたい泣きたい。それしか思い浮かばない気持ちを押し込めるように口を真一文字に引き結んだ。少しでも開いてしまえば瓦解してしまうかといわんばかりに、強く、きつく。ぐっ、と眉を寄せて苦無を振るった。手に伝わる感触。肉を断つ感覚。噴き出す血の朱さ。体にまとわりつく生温かさ。鼻腔を突く鉄の臭い。世界が赤に染まる。色を失う。あぁでもあなただけは。

「…あいたい」

 転がる無数の肉塊の中で想うことはあなただけでした。



失う世界であなただけが色を保っていた