待つことは嫌いじゃない。だから待ち時間に空を眺めて過ごしたっていいし、突っ立ってぼんやりして待ったっていい。人を待っているのだから、時間には終わりがあるのだ。その終わりがくるまでの間ぐらい、苦になることはない。

「だから雷蔵、そんなに申し訳なさそうにしなくていいって」

 困ったようにへらりと笑ってそういっても、雷蔵の情けなく見える八の字の眉は直らなかった。でも、と言い淀んで雷蔵は黙る。困ったなぁ、どうすれば笑ってくれるだろう。雷蔵と同じように情けなく眉尻を下げて、へらりと笑った。

「別に退屈じゃないからさ、平気だって」
「どうして?ぼぅっと突っ立ってたら退屈じゃない?」
「退屈じゃないよ」

 例えば。雷蔵は今頃なにしているだろうか。急いでるだろうな。転ばなければいい。今日も天気がいいな。陽射しが気持ちいい。こんな日は縁側で昼寝とか読書したいなぁ。雷蔵と一緒に談笑するだけでもいいかもしれない。おばちゃんに頼んで茶菓子用意して、お茶をするのもいい。

「とか、そんなくだらないこと考えてるし、結構楽しいから、平気」

 目を丸くする雷蔵にまたへらり、と笑って甘味処いこうよ、と促した。多少約束の時間に遅れたといっても午後は始まったばかりで微々たるものだ。日はまだ高い。予定通り甘味処にいってくることぐらい支障はないだろう。空を見上げながらくるり、と踵を返して正門へと向かおうとしたら手を掴まれた。

「雷蔵?」
「くだらなくない。くだらなくない、よ」

 不思議そうに見つめ返せば雷蔵は何故かほんのり頬を染めて視線を泳がす。

「…が人を想って考えてるんだから、くだらなくない」

 泳いでいた目がしっかりと合い、雷蔵にしては珍しく迷いのない目で言い切る。あぁ、もう。頬が熱くなってきた。雷蔵も先程より赤くなり、俯いてしまっている。恥ずかしいならいわなければいいのに。いわなければ、伝わらないのだけど。(そしてこんな思いも味わえない)

「…私、雷蔵すきだなぁ」
「僕もすきだよ」

 こんなときばかり迷いなく言い切るんだから始末におえない。

「…、ありがとう」
「…どうも」

 手を掴まれたまま、二人で真っ赤になって突っ立っていた。



君を待つ時間なんて楽しいに決まってるのに