時間が空いたからのんびりしようかと自室に向かっていたときだ。足取り軽く角を曲がれば屍累々な光景にでくわした。

「ひぃっ」

 思わず小さく悲鳴をあげてしまうが不覚だとか思うこともなく、目を丸くして呆気にとられてしまう。なんだこの状況。

「ぅ、」
「き、金吾?!」

 呆然と突っ立っていれば呻き声が聞こえ、咄嗟に視線を落とせば一年は組の金吾が泥だらけで倒れていた。慌てて駆け寄って抱き起こすが金吾は力なくぐったりしたまま、反応は返らない。

「ちょ、何事これ?!敵襲?!」
「委員会ですよ、さん」

 力尽きている金吾を抱き抱えながら騒いでいれば声が聞こえた。混乱して半泣きになりつつも顔をあげれば、滝夜叉丸が金吾と同じような姿で立っている。つまり、泥だらけのぼろぼろ。いつもの自信満々な姿はどこへやら、ぐったりと疲労困憊のようで倒れ付すように座り込んだ。

「ちょ、あんた大丈夫?」
「大丈夫なわけないでしょう」

 思わず言葉をかければ即答され、片胡座をかき後ろに手をついて滝夜叉丸は空を仰いた。相当疲れているようだ。四年でこれなら一年が倒れても仕方ない、ような気がする。依然ぐったりとした様子の滝夜叉丸を目の前に、どうしたことかと金吾の顔の泥を拭いながら考えていれば腕の中からまた、呻き声が聞こえた。

「金吾?」
「…、、せんぱ、」
「大丈夫か、金吾」
「はい、なんとか」

 滝夜叉丸の問いかけに意外とはっきりした声で答えた金吾は、むくり、と体を起こして礼をいうけど、それにどうってことない、と返して顔の泥を拭いなおした。本当、逞しく育ってるな。感心半分呆れ半分である。

「滝夜叉丸先輩、次屋先輩は?」
「あっちで時友の・・・いや、時友が次屋の回収をしている」
「…七松先輩は、」
「ここだぞ」

 どこかぼんやりした様子で会話している二人を眺めていれば後ろから影が覆い被さり、滝夜叉丸が指差した方向を見ていた二人は面白いくらいに固まった。空を仰ぐように上を見れば私の後ろから七松が覗き込んでいる。

「七松小平太…」
「おぅ、なに?」
「なにしてんの?」
「委員会!」

 これでもかというほど明るく、あっけらかんといわれた。くらりと目眩がしそうだ。というか、した。これが委員会?この有り様が?いやいやもう。

「ありえない」
「え?なにが?」
「なにがってこの委員会活動がだっつの!下級生ぼろぼろじゃん!なにしくさってんの!!」
「えー?いつも通りやったんだよ?」
「つまりいつもぼろぼろにしていると!下級生を満身創痍に追い込んでいると!そういうわけか!!」

 ぎしゃぁ!とかいう効果音がつきそうな勢いで首を傾けている七松に突っ込んだ。ほんとこいつどういう神経してるんだ。七松といわず六年生にいえることだが!ふつふつと湧き上がる感情のままに七松を睨み、叫ぶ。

「今日の委員会は終わり!終了!文句ある?!」
「んー…」
「文句あるならこれあげるから我慢しやがれとっておきだ!」

 そういって懐にいれていた包みを押し付けた。あぁもう一人で美味しく戴こうと思っていたのに。 ぎらり、と七松を睨み付けながら袖口で金吾についた泥を拭い落としてやる。ついでだったから滝夜叉丸のも拭ってやるとなんともいえない顔をされた。感謝しろよお前。

「これは…お饅頭?」
「あぁそうだよとっておきのだよ文句は受け付けんぞ!」

 中身を開いて確認している七松に噛みつくようにして吼えた。それに気を悪くした様子はなく、むしろにか、と笑ったもんだから思わず片眉をあげて怪訝そうに視線をむける。

「んじゃあさ、私と一緒に食べよう!」
「は?」

 思わず眉を寄せてすっとんきょうな声をだしてしまった。

「いやいやなんで?」
「お饅頭、くれただろう?」

 あげたけど。だから一緒に?なんで?

さん、深く考えないほうが無難ですよ」

 ついでにいえば諦めたほうがいいでしょう。そんなことをいう滝夜叉丸に視線を向けた瞬間、視界がぶれた。驚く暇もなく目線が高くなる。少し下に動かせば呆れたようにため息をつく滝夜叉丸。何事。

「そうと決まれば私の部屋にいこう!」
「はぁ?」
「あ、でもの部屋のほうがいい?茶器、準備してあるんでしょ?」
「あ、うん、お茶する予定だったし」

 展開についていけてない私は七松に担がれながら普通に答えてしまった。とりあえず声のするほうを見ようとするが七松のもっさりした髪と後頭部しか見えない。しかも肩が腹に食いこんで痛い。

「それじゃの部屋にいこっか」

 この言葉でやっと正気に戻った私は慌てて七松の頭を叩くが遅かった。

「ちょっ、お茶は付き合うからおろし、」
「それじゃ委員会は終了!解散!いくよ!」
「わかったからおろ、ぎゃあぁぁぁあ」

 人の話を聞かずに上機嫌に走り出した七松は私の断末魔を気にも止めずに、下級生に手を振った。助けを求めてみたけれど滝夜叉丸はみてみぬふり、金吾に至っては困ったように眉を八の字にさせるばかりだった。
 金吾は可愛いから許すけど滝夜叉丸は覚えてろよ!



まじで腹いてぇよこの馬鹿!