どろどろに溶け合って、互いがわからなくなるほど混ざりあってしまいたい。 そうすれば、こんな寂しい思いはしないだろうに。

「あ」
「どうした?」
「あー…忘れてた」
「いや、何をだよ、
「実はさー、兵助に勉強教えてもらう約束だったんだ」
「また課題でもできないのか?」
「そうー。実力は有り余ってるのに頭が追い付かなくて困るったらないね」
「はっぬかせ」
「ははっ!んじゃ、悪いけどいくわ」

 素早く立ち上がり、笑ってそう言い残して爽快に去っていく背中に笑顔で手をひらひら振り、見送った。
 例えば私が教えてやるとか。
 例えば兵助にじゃなく私に頼れよとか。
 そんな言葉たちを飲み込んで、わざわざ心にすきでもない寂しさを巣食わせている私は愚かなのではないだろうか、とか。
 ぼんやりと、そんなことを考えながらが走り去った方向を眺めていれば、自然と青い空を侵食していく夕暮れが目に入り、まるでのようだと、思った。
 青い空に紅が混ざる。融け合う。
 あんな風に私とも溶け合えたら、融け合うことができたら、きっとこんな想いもしなかっただろう。

「あ、三郎」
「雷蔵」

 声に反応して振り向けば雷蔵がいた。なにしてるの、と隣に座る雷蔵に空を眺めていた、とだけ返して視線を戻す。空はまだ赤い。

「そういえば、途中でに会ったよ」
「へぇ」
「なんだか急いでるみたいだった」
「兵助との勉強会を忘れてて急行中なんだろ」
「知ってる。探してた兵助にも出くわして、聞いた」
「そっか」

 はい、と渡された饅頭に礼を言いながら頬張った。夕暮れは宵闇に侵食され始めている。

「それ伝えたらってば気まずそうでさ」
「そりゃそうだろ」
「三郎と一緒にいるの楽しすぎて困った、どうしようとかいうんだよ」

 ぼとり。饅頭が落ちる。隣の雷蔵は笑顔のまま、何事もないかのように饅頭を頬張っている。 いま、なんといった。

「は?」
「だーかーら、は三郎と一緒にいるの楽しすぎるんだってさ。可愛いこというよね」

 相変わらず雷蔵は笑顔だ。太ももの上に落ちた饅頭を拾って持たせてくれる。あぁ、もう。

「三郎、顔真っ赤」
「うっせ」

 前言撤退しよう。個別だから、二人いるから、触れあうことも話すことも、愛しく想うこともできるんだ。別々だったから、出会えたんだ。

「よかったね三郎」
「…なんのことだよ」
 私を侵食していく。一体どこまで私を落としてくれるのか。

「…ありがとう、雷蔵」
「どういたしまして」

 楽しみで仕方ない。



どうせならお前抜きじゃ生きられないくらいに落ちてお前も、


私に溺れてしまえばいい、なんて。