ルールは簡単。鬼に確保され教師陣に引き渡された時点で終わり。つまり、鬼との攻防も可能。捕まっても抵抗し逃げてもいいのだ。期限は日没まで。さながら実戦とも呼べそうなこんなことを思い付いたのは学園長で、面倒なことを、ため息をついたのは随分前のことだ。 「おかえり竹谷ぁー」 木の上から下を通過していく下級生を見送っていると、もう一つ上の枝に竹谷が帰ってきた。 「おぅ」 「首尾は?」 「三郎と雷蔵が北、六年は単独で散らばってるのを確認した」 「一番やっかいな人達が散らばってるのは好都合だね」 「お前は?」 「一年同士で潰し合い、そのまま南下。二年はさっきそこ通った。三年四年は各々東西に展開してる」 「だとすると、共同戦線張ってる三郎と雷蔵が一番厄介だな」 報告しあっている間も隙なく周りを見渡していた竹谷は面白そうに口角をあげる。鬼に捕まっては罰ゲームが待っているというのに、呑気なものだ。竹谷と同じ枝に移動し、呆れたようにそれを横目でみて、ひとつ気付いた。 「竹谷」 「なんだ?」 「兵助は?」 六年が単体なら、私は竹谷と共同戦線を張っているし回避することぐらいできる。だからこそ一緒に鬼になってしまっている三郎と雷蔵が要注意であるわけだが、確か兵助も鬼になっていたはずだ。もしかしたら兵助がろ組の共同戦線に参加なんかしたら、かなり厄介だ。面倒なことになる。 眉を寄せて警戒しつつも返答を待つが、竹谷はいっこうに口を開く様子はない。なんだ、と怪訝そうに竹谷に視線をむければ先ほどまでの笑みは、ない。真剣ともとれる無表情。目を見張る。 「なぁ、は兵助が心配なのか?」 「は?なんで?」 「は、いつも、」 竹谷はどこか苦しそうに顔を歪めて、言葉を切る。何が言いたいのかよくわからず、俯いてしまった竹谷を見下ろすことしかできない。 「…竹谷?」 「っあー、ごめん!俺らしくもねぇなこんなの」 「竹谷?」 勢いよく顔をあげたかと思えばそんなことを、笑えてない笑みでいう。何を無理してんだか。 「兵助は単独で動いているのをみ、」 「竹谷ぁ」 ため息混じりで兵助のことを教えてくれた竹谷の声を遮る。下から睨みあげるように覗き込めば驚いたように下がった。下がった分だけ距離をつめる。背が幹にぶつかって下がれなくなった竹谷と鼻先があたりそうなほど近づいた。 「私、兵助のことすきだ」 「…そっか、そう、」 「三郎も雷蔵もすき」 「…」 「んで、竹谷のこと、だいすき」 口が半開きになり目が丸くなる。そんな竹谷ににっこり笑って。 「この違い、わかるでしょ?」 逃げた。 「あ、おい!!」 後ろから呼び止める声を無視して走る。顔が熱い。恥ずかしい。相変わらずかっこよすぎるよ竹谷。 どうか顔が赤かったことに気付かれてませんように。
追いかけてこないでよ惚れ直しちゃうから!
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