無愛想に挨拶をして戸を開ける。それに気付いた伊作は笑顔で迎えてくれるけど、私がしかめっ面なのは変わらなかった。

「随分派手にやったね」
「不可抗力です」

 腕から滴り落ちる血に目を止めて苦笑した伊作に、やはり無愛想に端的にいい返した。別に痛くて不機嫌なのではない。簡単な失敗をして尚且つ怪我までしてしまったことに苛々しているのだ。あぁ、もう、悔しい。悔しすぎる。あそこで失敗しなければ実習で完全勝利できたのに。

「ほら、何時までも突っ立ってないでこっちきなよ」

 伊作はやんわり笑んで険しいだろう私を呼ぶ。無言で戸を閉めて乱暴に前に座った。傷を見せるために勢いよく濃紺の着物を脱ぎ捨てる。

「おぉ、潔い」
「はぁ?」
「君ぐらいの子になるとね、怪我をして治療のためとはいっても恥ずかしがる子が多いんだ」

 くだらない。鼻で笑った。

「そんな子らと一緒にしないでくれるかな。それとも羞恥心で頬でも染めて欲しかったわけ?」
「それはそれで面白そうだ」

 からかい混じりでいってみた言葉は見事にさらりと返された。つまらないとばかりに眉を寄せて口を尖らせれば伊作が笑う。

「・・・でも、そんなことされちゃ我慢できなくなるから考えものだな」

 一瞬、だった。言葉に反応して治療していた腕から視線をあげれば思いの外伊作が近くにいて、そのまま啄むように口付けされた。
 おいおいおいおい。

「それでなくても我慢できてないじゃん」
「だって君、可愛すぎ。一瞬でも私の自制を外すがいけないよ」

 目を丸くして呆れたようにそういえば、笑顔で私が悪いだなんて堂々といいやがった。責任転嫁もいいところだ。治療を再開しはじめる伊作にため息をつく。

「めんどくせぇやつ…」
「ありがとう」

 相変わらず喰えないやつだ。またため息を深くついて、早く治療が終わることを願った。



褒めてない