ぐでり。息も荒く這い蹲って唸っていた。ぎり、と畳みに爪を立てる。まじで最悪。本気で、本当に、いつか必ず。

「あの野郎・・・いつか必ずぶっ殺してやる・・・!」
「何を物騒なことを言っているんだ、お前は」

 地を這うかのような重低音で搾り出した声に、ため息をつきながら九郎は縁側に腰を下ろした。僅かに顔をあげて空を、いや、きっと自室へと戻っているだろう弁慶を睨みつけるつもりで弁慶の自室がある方角を睨んでいた視線を、僅かに逸らして九郎の背中を見る。

「あいつ、マジで性格悪すぎなんですけど」
「昔からだ」
「友達選んでくださいよ」
「お前も相手を選ぶがいい」
「九郎さん、いなかったじゃないですか」
「俺にだってやるべきことがある」

 ああいえばこういう、というのはまさにこのことだろう。全く持って正論なので反論の余地もないが、そう簡単に収まる腹の虫ではない。良くも悪くも負けん気が強すぎるのである。こういう性格って疲れるんだよなぁ、と思いはするが治そうにも治るものなら既に治っていると思う。性格矯正計画は既に数年前から実施済みだ。これでもましになったほうだなんて、笑える話である。
 ごろり、と畳の上に転がって部屋から外を、九郎の背中を眺める。ちくしょうでかいな。自分も男だったら良かったのに。

「で?何かいうことはあるか?」
「・・・うぅ、まじむかつく!」
「そうだな」
「なんであんなに意地悪いんだあの野郎!」
「そうだな」
「自分も男だったら良かったのに、良かったのに!」
「それは困るな」

 会話の片手間に手馴れた様子でお茶を準備し、ちゃっかりと湯飲みを二つ用意している九郎を睨みつけた。依然としてこちらに背を向けている。ゆらゆら動く長い髪や後姿に耐え切れなくなって、ぶつかるようにして背中にしがみついた。

「九郎さんは卑怯ですね!」
「そうか?」
「そうです!」

 しがみつく腕のに力をこめると僅かに振動が伝わってくる。笑っているのだ。そのことにまた眉を寄せて更に力をこめた。あぁもう悔しい。

「ははっ」
「なんで笑うんですか」
「なんでもない」
「気になります」
「では一つ、いっておくか。お前は手のかかるやつだな」
「その言葉、そっくりそのままお返しします」

 また笑う九郎に反撃とばかりに絞めるようにして腕にありったけの力をこめた。痛いぞ、と言う割りにまだ声が笑っているのが気に喰わない。あぁもう悔しいったらありゃしない。

「・・・人を怒らせて楽しいですか」
「怒らせてはいないぞ。甘やかし、頼らせているんだ」
「その対象が自分なら同意義ですから!」
「別にいいだろう」
「良くないです!」
「これは俺だけの特権だ。堪能して何が悪い」

 あぁ悔しい。なんで今日はそんなに饒舌なんですか!

「・・・じゃあ九郎さんの甘えて来いといわんばかりの背中は自分のですね」
「何を今更」

 あぁちくしょう大好きだ馬鹿野郎!!


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弁慶さんがいろいろと遊んでいるうちに、九郎さんとくっついてしまったようなそんな感じ。

(執筆/2009/02/15/...再録/2012/02/10)