好きで好きで好きで好きで好きで、どうしようもなく好きで。でもそれは一生告げられることはないんだろうということを自分は知っている。告げてはいけない。この世界を去り行く存在なのだから。

「なーにしてるの、
?」

 ぼんやり外を眺めていれば頭上から声が降ってきた。頭を反らせて上を見ればチカの顔が逆さまに見える。そのまま隣に移動したチカにあわせて頭の角度を直して、あれ、という言葉と同時に視線で示した。

「あれ、みてた」
「あー、のんちゃんと九郎さんの鍛練の最中に邪魔してる弁慶さん?」
「邪魔はしてないよ・・・。なんか、次の戦の話を軽くしてるっぽい」
「へぇ」
「ちなみに弁慶さんだけみてるような言い方はないんじゃない」
「はっ、どうだか」

 じろり、と睨むようにして突っ込めば鼻で笑われた。こいつは。深くため息をついて、何故だか楽しそうな三人をみやる。弁慶がからかって、望美が困って、九郎さんが赤くなって。面白い組み合わせだなぁ、なんて呑気に眺めていれば目があった。にこり、と微笑まれる。とりあえずへらり、と笑い返して、手を振ってくる望美にはひらひらと振り返した。

「ばれてたねぇ」
「そりゃこんぐらい凝視してればねぇ」
「それだけじゃないでしょ」
「えぇー・・・」
「だって、私でさえわかったよ」

 あんたのそれ。そういっては立ち上がり、頭を叩いて後姿を見せる。文句をいう前に手を軽く振って去り行く背中に眉を寄せて眺めた。歩いていく方向からして台所にでもいくのだろう。そろそろおやつの時間であるし、譲にでもたかりにいくのだろうか。ぼんやりとそう思い、もう見えない背中にため息をついて、視線を庭へと戻した。まだ、三人で騒がしくも和やかに話をしている。戦の話は終わったようだった。

「・・・ばれてるかなぁ」

 ばれているのだろう。が、そういうのなら。弁慶は以上に聡い人であるから。この視線だけで、この想いが、知られている可能性は十分にある。もしかしたら告げるつもりもない、ということも気付かれているかもしれない。自分は案外、わかりやすい性質ではあると、よくいわれるから。あぁでも、だからこそばれたのだと、そう思いたい。別にすきだなんて思っていても平常心は保てているし、なんだかんだで上手く隠せるとは自負しているし。普段からだって変わったところなど一切みせていないはずだ。自分の気持ちに気付いたからといって、簡単に日常が変わるわけがない。変わらなかった。だから、大丈夫。
 きっとこの気持ちは消え行くものだ。現代に戻って、普通の生活に戻って、過去を忘れ去り、時間に追われ、行く先の見えない明日を生きる。それなりに楽しく、忙しく、また元通りになるのだろう。いい思い出だったと、二人で語り合うことになるのだろう。そんな未来が、自分たちには用意されている。だから、この感情は不必要なものだなのだ。こんなもの抱いても、不毛なだけなのだ。
 だって、どうせ戻るのだから。

(あぁ、なんか、切ないかもなぁ)

 片膝を抱えて、目を閉じた。


騒音ばかりの無音な世界で何を想う。


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(執筆/2008/04/29/...再録/2012/02/10)