燃えるような色




 だって仕様がない。それが自分なんだ。

△▽△


 腕を掴まれた瞬間、あぁやっちまったと思った。

「お前、無茶するなっていっただろ」
「はぁ?なんのことだよ、ヒノエ」

 必死で誤魔化そうとしている内心を隠して、胡乱気にヒノエを見上げればふざけんなと、目が語っていた。相当頭にきている。誤魔化させてはくれない。掴まれた腕とは反対の手で頭を掻いた。あーもう失敗した。どうしてばれるかな、よりにもよってこの人に。

「なんの話?」
「へぇ、ここでまだ白を切りとおすのか。呆れを通り越して見事だね」
「それはどうも。んで?もういってもいい?」
「ダメに決まってんだろ」
「えぇー」

 心底嫌な顔をして抗議してみても、ヒノエは険しい顔のまま腕を放そうとはしない。いつものあの余裕綽々な態度が欠片も見当たらないことに、不信感を感じて片眉をあげる。ヒノエの顔を覗き込もうとしたら俯くことで避けられた。珍しい。

「俺は、お前が死に急いでるようにしかみえない」
「・・・それこそなんで」
「あいつを、を守るのは別にいいさ。人によって大事なものが違うっていうのも知ってる」

 ヒノエが大切なのは熊野。そのヒノエにとっての熊野の位置にいるのが自分的にチカなだけの話。俯いたまま表情が見えないヒノエはそのことをよく理解しているようだが、話の繋がりがよくみえなくて、何をいいたいのかよくわからなかった。更に覗き込もうとすれば頭を掴まれて抵抗される。一体なんだよ。

「・・・それで?」
「・・・お前は、あいつを守ることに固執しすぎて周りがみえてないんだよ」
「はぁ?いっとくけど、これでも自分の身が一番可愛いから人を守って死ぬようなことしないけど?」

「知ってる」

 だったらなんだっていうんだ。わけがわからない。自然と眉間にしわがより、こてんと頭を傾ける。考えてもさっぱりわからない。お前、いったいどうしたんだよ、まじで。

「知ってるけど、お前はいつか死ぬよ。誰かを守って」
「死なないって」
「いや、絶対だ。これは言い切れる」
「根拠は?」
「みてればわかるさ」

 ふと、視線があった。俯いてばかりで、顔さえみせないヒノエの紅い髪を眺めていたら、真剣な、真摯な目とぶつかった。力強い、先ほどの言葉を断言するかのように視線が強い。適当に聞いてみた問いにそんな痛いくらいの視線と言葉が返ってくるとは予想だにしていなくて、思わず目を丸くして無意識に半歩下がってしまった。そのぶんだけヒノエは腕を引いて引き寄せる。抵抗は、できるはずもなかった。

「お前が死んだら、俺が悲しいだろ?」
「・・・」
「だから怪我の手当てくらいおっさんにしてもらえよ」
「あんさ、その言葉、にいってやれよ」

 耳元で聞こえる声に苦し紛れにそう返せば、いつの間に復活したのか余裕の滲み出るささやかな笑い声が聞こえた。耳に息がかかってこそばゆい。

「お前だからこんなことをいうのに、わからないのかい?」

 一生わかりたくもない。


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(執筆/2009/09/21/...再録/2012/02/10)