目の前に広がる光景に目を丸くした。 「さん・・・」 そう呟くのはハルキだ。幼い、人間の皮を被った殺戮兵器。己を慕う可愛い弟分。 「・・・ハルキ」 名前を呼べばびくり、と肩を揺らして俯いてしまった。自分が何をしてしまったのか理解しているのだろう。そして、それを自分が許しはしないということを。 ゆっくりと近づく。近づけは近づくほどにハルキの震えは大きくなっていく。ひどく怯えているのがわかる。それを可哀そうだと思えど、思うだけで同情はしない。 「ハルキ」 もう一度、はっきりとした声音で呼んだ。ハルキは消え入りそうな声で「はい」とだけ返す。目は、まだ下をむいたままだった。 「どうしたの?」 無感情な、平坦な声。恐ろしかったのか大きく肩を揺らし、ハルキは服の裾を握る。それを見下ろして、鼻につく錆くさい臭いに眉を寄せた。 「約束、覚えてる?」 「覚えています」 「なら、何故」 「…、…わかりません」 考えるそぶりを見せてからはっきりと、そう答えた。わからない、そう、わからないと来たか。ふむ、と下唇に親指を押し付けて考える。ハルキへと向ける目は冷えたまま、どうしようかと考える。 「ハルキ」 「はい」 「顔をあげて、目をみていってごらん」 また、びくり、と大きく肩が揺れた。先ほどから小刻みに震えているが、それがさらに大きくなったかのように思う。それほどに、自分に捨てられることが恐ろしいらしい。ここまで一緒にいたのだ、いまさら捨てるなどそんな選択肢はあるはずもないのに、ハルキは臆病だ。 そう思いつつも、ここで優しい顔をしては次もやらかしてしまうかもしれないので顔にはださず、努めて冷たい目と無表情で見下ろした。 「ハルキ」 もう一度名前を呼ぶと、ゆるゆると頭を持ち上げた。それでも下を向いていた視線を、もう一度名前を呼ぶことで上向きにさせる。ゆっくりゆっくりと、瞼が持ち上がる。視線が交わる。冷えた目と、怯えと恐怖が色濃い目。 「気づいたら、殺していました。何故かは、わかりません」 そのさらに奥に潜む、どこか爽快感が残る目。あぁ、ハルキ、お前はやはり。 「そうか」 目を閉じてそうつぶやく。ハルキから向けられる感情に怯えや恐怖はあれど、殺意はない。アクマにとって例外なのだ、自分は。それは痛いほどに理解した。納得した。 だからこそそばに居られる。自分を慕う。壊されない。一緒に、過ごすことができる。 (2010/01/03/) |