少年はレベル2のアクマだと言った。双子の兄に呼び戻されその兄の皮を被り、しばらくは姉のように慕っていた幼馴染と一緒に暮らしていたらしい。双子も幼馴染の女の子も孤児だった。

「自分、っていうんだけど、お前の名前は?」
「レベル2アクマです」
「いや、生前の名前は?」
「…」
「困ったねぇ・・・」
「好きに呼んでください」
「えー・・・。あ、こっちこそ好きに呼んでいいから」
「・・・、・・・・・・、さん・・・?」
「ん?なぁに?」

 にこり、と笑って聞き返せば少年は俯いてなんでもありません、と震える声で小さく言った。よしよし、と頭を撫でてやる。可愛いもんだ。子ども扱いしないでくださいとかいう言葉は聞かなかったことにした。

「んー…じゃお前のこと、今日からハルキって呼ぶけどいい?」
「…ハルキ?」
「そう、漢字で書くと"晴輝"かな、当て字になるけど。ってわからないか」

 空中に人差し指で漢字を書いて見せるけどここは英国圏だ。伝わるはずもない。少しさみしく思って息をつくと隣を歩いてぶつぶつと与えられた言葉を復唱していた少年がぱっと顔をあげた。

「うん、ハルキ。僕、ハルキだね」
「いやだった?」
「ううん、すごく嬉しいです。さんありがとう」

 にこり、と本当に嬉しそうに宝物を手に入れたかのように笑うから一瞬だけ言葉が詰まった。感じる、向けられているその気持ちは、いったい何なのだろう。まるで刷り込みのような、そんな。

「どういたしまして」

 答えのない違和感は笑顔の下に隠した。






(2009/05/02/)