ぱら、ぱら、と規則的なようで実は不規則な音が響く。分厚い本をそろえた膝の上に置き、慣れてしまった横文字の文章を追いかけた。 「おーいー!頼むから降りてきてくれー!」 「はしご使いたいんだよー降りてきてー!」 慣れてしまったとはいえ、かなり不慣れな横文字は神経を使う。根っからの英国人ではない自分では、脳内変換で日本語に訳しているからとても疲れるのだ。訳の仕方でいくらでも言葉の言い回しができ、そのおかげで言葉遊びなんかできたりもするから面白いとは思うけど、日本語で書かれた本を読みきる時間の倍はかかってしまう。この本棚にある本、全て日本語訳されていればいいのに。そう思ったのはつい数時間前のことだ。 「ー!そろそろ休憩しないー?もう五時間はたつよー?」 「ちゃんが降りてきてくれないと、リーバーくんたちの仕事が捗らないんだよー」 「俺たちだけじゃないっすから、室長」 ページをめくって文字を追いかけていると見知らない単語がでてきた。ぐっ、と眉を寄せて即座に最近持ち歩き始めた英和辞書を取り出す。最初はこの存在に驚いたが、どうやら神田がここに来たときにお世話になったものらしい。ついでとばかりに師匠にあたるあの人もお世話になったとか。入手経路などが気になったが、なんでもありの世界だ。気にしたほうが負けだと思う。綴りを確認しながらページをめくった。 「・・・だめだありゃ。聞こえてねぇな・・・」 「もう、一緒にご飯食べようって約束したのに」 「リーバー班長ぉー、調べ物ができませんー」 「泣くなジョニー、俺も泣きたい」 「大変そうだねー」 「いっておきますが後で苦労するのは室長ですから」 やっとのことで発見した単語をノートに書き込み、調べたばかりの意味を横に書き込んでいく。もちろん日本語で、だ。そこでふと、前にリナリーにノートを覗き込まれたときのことを思い出した。すごく不思議な顔をされ、三つも文字を使い分けているの?なんて聞かれるもんだからこっちが驚いてしまった。英語圏では文字は一つだから、三つも使い分けることが珍しいんだろう。まぁ、現代でもよく聞く話ではあったが、まさか自分が体験するとは思っても見なかった。 ぱたん、と英和辞書を閉じて太ももと本の間に滑り込ませる。そして少し背を伸ばして、腕は目一杯に伸ばして一つの本を抜き出した。それを下であぁだこうだ言っている人たちに向けて投げる。それは見事リーバー班長に命中して、ジョニーが大袈裟に名前を叫んでいた。泣くほどじゃないだろうに、本当に大袈裟だなぁ。横目でそれを眺めつつも違う場所からもう一つ抜き出した。 「ジョニーさん」 「う、えっ?」 「それ、たぶんリーバー班長が欲しがってた本です。あとこれ、ジョニーさんが探してた本じゃないかな」 そういって今度は落とすように投げる。本自体がハードブックで分厚いから当たれば痛いことには変わりないが、リーバー班長が受けた痛みよりは軽いだろう。現に痛そうではあったが、ジョニーは見事受け止めて早速内容を確認している。リーバー班長もいつの間にか起き上がって内容を確認していた。 「・・・本当だ、これ、僕が探してた本だよ」 「俺のもだ・・・」 「ん、よかった」 信じられない、とばかりに呟かれた声に満足そうに笑って、開きっぱなしの本へとまた向き直る。 「本を探しているなら声をかけてください。読んだ本ならたぶん、覚えていればすぐにある場所ぐらいならわかりますから」 「あぁ助かる・・・って、全部か?」 「はい」 「全部って・・・君が読んできた本、全部?」 「はい」 「この馬鹿でかい本棚三つ分はあるのにか?」 もう一度はい、と答えれば何も聞こえなくなったので本を読むことに集中した。あとで聞いた話によると、コムイ室長より使えるんじゃないかと科学班が真剣に論議していたらしい。馬鹿だなぁ、そんなはずあるわけないのに。でも、日頃の行いを考えればそう考えてしまいたくなる気はわかる気がした。 (2009/02/09/) |