断固拒否。この言葉に尽きる。

「いやです」
ちゃん、」
「絶対に、いやです」
「でも、君は選ばれた」
「知りません。なんで戦わないといけないんですか」
「それは、神の使徒だからだよ」
「自分は適合者ではないと、ヘブラスカって人がいってました」
「それでも、君はイノセンスを扱うことができる」
「扱い方なんて知りません」
「これから覚えていけば済むことだよ」
「覚える必要はありません。戦うことなんてできませんから」

 淡々と、拒絶と否定の言葉を繰り返す。こんなことをいってどうにかなるほど甘いものではないということは、薄々感じてはいたけど、どうしても黙っておくことなどできなかった。戦いたくない。これだけは、譲れない。もう戦争などこりごりなのだ。何故、あの時よりもより酷いだろう戦争に参加しなければならないのか。これもあのお姉さまのせいなのか。恨むぞ天帝。ため息をついた。

「・・・絶対に、戦うことはできません」
「どうしてか、聞いてもいいかい?」
「できないものは、できないんです」

 そう主張して、口を閉ざした。やりたくないものは、やりたくないのだ。自分は、自分の身が可愛い。


☆☆☆


 話は平行状態のまま終わった。教団側はエクソシストとして育てたいが、自分はそれを断固拒否。話がまとまるわけがない。このままでは埒があかないということで用意された部屋へと返されたが、この部屋へと通された時点で教団側は自分をエクソシストとして扱っているんじゃないだろうか。だって隣の部屋、リナリーだよ?気が早いって言うか、有無を言わさずというかなんというか。諦めろってことなのだろうか。やってられない。
 なんだか居ても立ってもいられなくなって、外へと出た。教団内でなら、うろついてもいいという許可はもらってある。腹も減っていることだし、とりあえずは食堂を目指そうか。のろのろと歩き出す。あぁ、そういえば、道、知らない。どうしもんだか。

「こんにちはっ」

 迷ってもいいか、と投げやりなことを思いながら歩いていたら、声をかけられた。咄嗟に振り向けばツインテールの可愛い女の子がこちらをみている。リナリーだ。立ち止まれば小走りで近寄ってくる。身長は・・・自分と似たようなところだった。

「・・・こんにちは」
「・・・覚えてる?」
「覚えてるよ、リナリーさん」

 名前を呼べば破顔一笑、とても嬉しそうに笑みを浮べた。可愛いなぁ。少し、癒された。

「さん付けはしなくていいよ!リナリーって呼んで?」
「わかった。じゃあ自分も、呼び捨てでいいよ。名前はっていいます」
?」
「うん」

 人の名前を呼んで笑うリナリーは、普通の可愛い子供だった。コムイもいたことだし、原作で語られたあの時期は過ぎているとみていいようだ。まぁコムイ以外が室長だった時期の教団になど、お世話になんかなりたくもないが。そのころに適合者ではないのにイノセンスを扱えるなんてことが判明していたら、自分はどうなっていたかもわからない。先ほどみたいな問答もなしに、頭ごなしにエクソシストとして働かされていただろう。そんなことになっていたら、リナリーと同じように気が狂っていたに決まっている。むしろ狂わない自信がない。

?」
「え?あぁ、なに?」
「酷いなぁ、聞いてなかったの?」

 どうやらぼんやりしすぎていたようで、全くリナリーの話を聞いていなかった。苦笑交じりで謝り倒す。そうすると仕方ないとばかりにため息をついて、もう一度話してくれた。なんだか、全ての仕草に嬉しいという感情を紛れ込ませているから、可愛い。同じぐらいの年齢の子供なんてほとんどいないんだろうなぁ。嬉しく思うのも仕方が無いだろう。それを隠し切れないのも子供ならではで、微笑ましくなった。

「いまから神田とご飯食べにいくの。いっしょに行こう?」
「神田?」
「うん、私たちの仲間だよ」

 神田って、あの神田か。最初は女顔なくせして最終的には美形の男前に育つぱっつんなあの神田か。そいつの子供時代。しばらく考えて、返答待ちのリナリーににっこり笑った。

「うん、ご飯、一緒に食べよう」

 非常に興味があります。


☆☆☆


 リナリーが小走りで前をいく。それを同じく小走りで追いかけた。走らなくてもいいのに、とは思ったが、急がなければ神田が先にご飯を食べてしまうらしい。・・・それは一緒に食べにいく、というよりも、神田のご飯時にお邪魔しているといわないだろうか。無難な突っ込みは控えておいた。
 最初からわからなかったが、どこをどう走っているのか更にわからなくなったころに食堂についた。丁度ご飯を注文するところに神田が見える。うん、さすが子供時代。小さいなぁ。そして自身に不釣合いな刀を持っていた。

「神田ー!」

 リナリーが手を大きく振って神田を呼ぶ。振り返った神田はきつく眉を寄せていて嫌そうな顔をしていて、明らかに歓迎していないと物語っていた。こんな美少女が一緒にご飯を食べてくれるというのだから、そんな顔しなくてもいいのに。

「神田!いまからご飯でしょ?一緒に食べよう」
「・・・嫌がってもお前のしたいようにするんだろ。好きにしろ」

 ぶっきら棒だなぁ、と神田を眺める。こちらも大層な美少年だ。髪は長いが高く結い上げはせずにいまは稚児結いにされている。年齢の割りに小さいという印象を受けるが、子供であるしこんなものか。そう分析していると、神田と目があった。訝しむ様に見られ、酷く居心地が悪い。

「あっ、神田、に威嚇しないでよ!」
「してねぇよ。だれだよこいつ」
だよ。今日から仲間なの」

 リナリーの簡単な紹介のあと、神田の前に押し出される。自分より少し高めの目線で見下ろされる形になるが、なんというか、ど迫力である。なんで睨まれてるの自分。美人が睨むほど怖いものはないと知っているが、神田は迫力がありすぎた。内心逃げ腰になりながらも、なんとか笑うことに成功させはするが、怖い。全く何もした覚えがないのに冷や汗ものである。

「どうも、です」
「新しいエクソシストか」
「わかりません。適合者ではないので」
「あ?なら探索部隊なのか。お前みたいな子供が?」
「詳しくは室長さんに聞いてください」

 この尋問されているような雰囲気はなんだ。全く持って、非常に怖い。ひくり、と頬を引きつらせて助けを求めるようにリナリーをみれば、目を丸くして驚いていた。あぁ、そうか、リナリーも知らないんだったか。

、そうなの?」
「うん、まぁ。自分でもよくわからないし、リナリーも詳しくは室長さんに聞いてくれると助かります」
「わかった。そうする」
「ありがとう。じゃあご飯、食べようか」

 実はかなり腹が減っているんだ。ついでに目の前の視線から逃げたい。


☆☆☆


 頼んだオムライスはそれほど時間がかからず渡された。流石ですジェリーさん。出来栄えの素晴らしさに感動しつつ、リナリーもお揃いがいいと言い張ったオムライスを手にして満足気である。神田は蕎麦を渡されていた。やはり。好きなものを食べるのもいいけど、三食それでは栄養が偏るから成長期の今頃には好き嫌いなくいろんなもの食べたほうがいいと思うのだが。
 目の前に座って蕎麦を食べる神田を眺めつつ、オムライスを口へと運ぶ。卵が見事にふわふわのとろとろで、絶品だ。これ以上に美味しいオムライスに出会ったことがない。あぁ、やばい、私も三食ともオムライスを頼んでしまいそうだ。美味しいね、というリナリーの言葉には全力でそうだね、と返した。ジェリーさん素敵過ぎる。

「・・・おい」
「なに?」
「お前、戦えるのか」

 人が幸せに浸っているというのに、この子供は現実を引っ張り出してきたりしてなんて可愛くないんだ。知ってはいたけど、腹立たしいしったらないな。頬杖をついて半眼で視線を寄越す神田に、口の中にあるものを飲み込んでからため息をついた。

「一応は仕込まれてます。でも、戦うつもりはありません」
「なら、さっさと出て行くことだ。お前なんかすぐ死ぬぜ」
「そのつもりなんでご心配なく」

 ばちり。神田と自分の間に火花が散った。美少年のくせになんて可愛くない子供だろう。隣にいたリナリーには申し訳無いが、長く滞在するつもりはない。まぁ、つもりなだけで、きっと現実的に考えればこのままエクソシストとして籍を置くことになるなど目に見えている。上層部がこんないい物件、手放すとは思えない。そこまで考えて頭が痛くなった。なんで自分なんだか。

・・・、出て行くの?」
「・・・さぁ、実際のところ、よくわかりません。でも、でていきたいとは思う。無理なんだろうけど」

 ため息とこの言葉を最後に水を飲み干し、なんともいえない顔をした二人を残して席を立った。オムライスは完食済みである。食器は適当に提出口からだして、食堂を後にした。
 本当、懐いてくれているらしいリナリーには申し訳無いが、紛れもない本心だ。神田にとっては、腹の立つ答えだっただろうか。でも、自分は戦いたくなどないのだ。これ以上巻き込まれる謂れは無い。このまま元の生活へと戻ることなんて無理なんだろうとは頭では理解できているけれど、気持ちが納得できない。諦めきれない。理不尽さを許容することなど、できない。
 自分には、戦う理由と覚悟がないのだから。






(2009/01/03/)