帝光中は大きい。クラスなんてアホみたいにある。生まれが田舎でクラスも3つしかなかったとんでもない僻地出身としてはびびるぐらいにある。その記憶は何十年前の話だよって話になるのだが、基本的な幼少時の記憶はやはりそこへとたどり着くためにこの思考回路は仕方ないと思うのだ。 とにかくでかい。広い。設備が良い。さすが私立。そんな変な感動とともにこの学校に通っているわけだが、庶民中の庶民で学校は必ず公立だった自分はほんと場違いだよなぁ、なんて毎朝思いながら教室へと向かっている。祖父母に育てられ家族全員で節約にいそしむ家庭で育った自分は、どうしても私立は裕福層が通うという古臭い認識が抜けないのだ。 やはり何十年前の話だよ、という話になるのだけど。 「・・・根底がそこだから仕方ない、仕方ないよな」 もはや日課となった毎朝の自己暗示である。 *** 「おはよーちん」 「・・・おはようございます」 席に行くための通過点には壁がある。どでかい壁が。 「朝からご苦労さまだねー」 「そういう紫原くんもお疲れ様です」 「別にー。赤ちんが付き合えっていうから付き合ってるだけだしー」 もそもそと赤司にもらっただろうお菓子を頬張る紫色の馬鹿みたいに大きい子供。 紫原敦。まさかのキセキの一人の隣が自分の席なのである。 ひくり、と頬がひきつり、出そうになるため息をかみ殺しながら紫原の奥にある席へと向かう。本当、 関わり合いになりたくないというのに、なんでこうも仕組まれたかのように、強制的に、有無を言わさずに、圧倒的な流れによって巻き込まれていく。体質なのだろうか。体質、なのだろうなぁ。ならばせめて、平凡に死なせてくれ。 かみ殺したはずのため息が生き返り、世界へと放たれてしまった。 「ちん、朝から暗くない?」 「あぁ、荷物が重たいだけですよ」 ドカッ、と荷物を机に乱暴に乗せる。バスケは楽しい。体を動かすことがすきだ。だからやっていたい。でも、なぁ。今後のことを思うと本当にため息がでる。 隣から突き刺さる視線を無視しながらまた乱暴に椅子に座り、鞄から教科書を取り出して引き出しの中へと突っ込んだ。一限目は現代文か、眠くなるなぁ。 「・・・ちん、これあげる」 「え?」 べし、と無駄に長い腕が隣からのばされ、握りこぶしの中から転がり出てきたチョコレートに目を丸くする。紫原がお菓子をくれた・・・だと・・・?そんな馬鹿な。隙あらば人のお菓子を奪っていくような紫原からお菓子を渡される日がくるだなんて夢にも思わなかった。 「ちん、なんか元気ないみだいだから、特別ー」 「あ、うん、ありがとうございま・・・ってなんで机くっつけてるの」 続いて発せられた言葉にまた驚きながらお礼を言おうとすれば、ガンッ!と痛い音と一緒に机が繋がった。いやほんとなんでだよ。 「俺、教科書忘れちゃった。みせてー?」 机に突っ伏して、顔だけこちらに向けていつものだるそうな口調でいう紫原。イケメンずるい。いやその前に、忘れただなんて嘘いうなよ自分は知ってるぞ教科書ほぼ全部置き勉してるの知ってるんだぞだから、だから。 口から出かかった言葉は口を引き結んで飲み込んだ。そうだ、紫原は大きな子供だった。他人の感情に、敏感なのだ。子供は感じ取る、鋭く捉えるのだ。 厄介な隣人だなぁ。 「・・・いいけど、次はちゃんと持ってきてよ」 「はいはーい」 ころん、と鞄から取り出したカントリーマアムを挙げれば上機嫌に笑う出す。 その笑顔に癒されている自分はまだまだだなぁ、なんて思った。 *** 「紫原、起きろ」 「先生、起きませんむりです」 「そうかじゃあ、ここ解いてくれ」 (貧乏くじひいたクソ!!) (2013/04/08/ 再録) |