帝光中学校。 今度自分が入学する学校らしい。帝光。へぇ、帝光。うん、聞き覚えがありすぎて頭痛がする。 「?大丈夫か?」 「あ、はい、大丈夫、うん」 つい敬語になってしまうのを抑えて気を使ってくれた「父親」にへらり、と笑う。確かにこの「父親」は自分の父親ではあるが、大変申し訳ないことに自分が記憶している「父親」と異なるため、どうも敬語を使ってしまいそうになり困る。最初から敬語キャラでいければよかったのだが、自分の口調はそうじゃないためごまかしがきかない。 転生なんて面倒なものだ。 「帝光ってバスケの強いところでしょ?進学する学校はできればバスケできる学校がいいって確かに相談したけど、まさか帝光の名前が上がるとは思ってなかったからびっくりしただけだよ」 「そうか」 「うん。帝光中か、そうだね、行ってみたい、けど受験が気になるなぁ」 「なに、お前の学力なら大丈夫だろう」 「そうかなー・・・。チャリ通できる中学近くにあるし、そこでもいいとは思うんだけど」 「お前が数少ないわがままだからな、思いっきりさせてやりたいのさ」 「ありがたいけど私立じゃん」 「子供がそんなところ気にするな。相変わらずお前は謙虚だな」 はっはっは、と笑う父親に苦笑する。気にするよ、自分は「この体」の人生をつぶしたのだから。 本当、厄介。 「とりあえず受けてみなさい」 「はい、ありがとう、・・・お父さん」 ごめんなさい、ありがとう。 *** 入学式が終わる。真新しい制服と胸の祝いの花がまぶしい。 今日、自分は帝光中学校に入学する。 何校か試験を受け見事全部受かったわけだが、自分的にはその中の他の公立中に行きたかった。もちろん父親にはそう訴えたが父親は帝光中をごり押ししたために帝光となった。やはり弱いのだ、「親」には。 白いブレザーが目に痛い。あぁ、何故帝光なんだ。ここは普通の世界だと安心していたのに。あぁ。モロすぎて嫌だ。こんなことになるならバスケなんてしなければよかった。いや、バスケ好きだからやりたかったんだけども。あーもう。 なんでまた漫画の世界とかそういう世界なの。 「っと、ごめんなさい」 つらつらと恨み節を考えてながらぼんやりと帰り道を歩いていると、誰かとぶつかった。知らず知らずのうちに俯いて歩いていてしまったらしく、完全に自分の前方不注意だ。あわてて顔をあげて謝る。そして、硬直。 「いえ、僕もぼんやりとしていました。すみません」 「・・・イエ」 あああああああまじかよ!!!!!! 「・・・?ぼんやりとして、どうかしましたか?」 「あ、いえ、大丈夫です。君も、怪我とかありませんか?」 「えぇ、大丈夫です」 とっさに答えて表情を作る。背中の冷や汗がやばい。しょっぱなからこれだなんて、先が思いやられる。いや。、いままでも経験からするに、自分は巻き込まれやすい。何故か、そういう運命線、とでもいうのだろうか。そう、物語の渦中に放り込まれる確率が高い。どこぞのお姉さまのせいで。 だから主人公の黒子テツヤに鉢合わせるだなんて、そう、想定はしていた。しかし時期が早い!!!! 「それはよかった、です」 「君も怪我はなさそうですね。ぶつかってしまいすみませんでした」 「いえいえ、こちらこそ。では」 「えぇ、では」 何事もなく別れる。別れられた。よかった。黒子っちはそういうキャラだものね!よし、このまま避けて避けて平凡に生きよう。それが、良い。 そうやって、生きたい。 *** 「スターティングメンバーは、」 監督の言葉を聞きながらボールを持ち直す。隣にいるチームメイトには「死んだ魚の目をしてるけど大丈夫?」だなんていわれるけど、「大丈夫」とは返したけれど、あぁ、ほんと、もう、どうしてこうなった。 「最後は。ホジションはSG。外からばんばん打ってけ」 「はい」 「今回の一年生は強い子たちがそろっているが、強ければ強いほど丁度いい。男子と女子では差があるだろうが、勉強するところはたくさんある。存分に盗んで来い」 『はい!』 みんなの声がそろう。女子はスポ根だよなぁ、なんて思いつつ、男女バスケ部の練習試合という事実に泣きそうになった。なにそれ、知らない。名物だなんて、知らないよ。そもそもなんで自分がスタメンなのかさえよくわからない。 入部して半年。まだ半年だぞ、半年。 あぁ、まじで、本当に、 「男子バスケ部対女子バスケ部の練習試合をはじめます!」 どうしてこうなった!!!! 「一同、礼!」 むなしく笛の音が鳴り響いた。 *** 「君はスタメンででてたSGの子だろう」 男子には圧倒的に負け、部室で着替えながら軽く反省会をした後の、のんびり一人で帰ろうとした時だ。 声をかけられた。何事、と振り返れば赤い髪をした少年が紫と緑と青とを引き連れて立っていた。おぉ・・・なんて色とりどりなんだ。 「あれー?どうしたのー?」 「あっ、いや、ちょっと驚いただけ、です」 「あ?なんでだよ?声かけただけだろ?」 「青峰、これ以上怖がらせてどうする。一般女子からすればこんな図体のでかい男にそろって声をかけられれば驚くのだよ」 「そういうことだ。さて、いきなりすまないね」 「いえ、」 ほんとだよ!!なんだんなだよ!!!お前らでかくてびびるんだっての!!!しかも関わりたくないんだよ!!!!オヤコロとザリガニ蝉とんまい棒とツンデレ変人とがそろいもそろってなんの用なんだよ!!!早く返してくれよ帰りたいんだよ疲れてるんだよお前らに叩き潰されたからな!!! 「君は今日、とてもいい熟練された動きをしていたね。ついこの間まで小学生だったとは思えない」 「あ、ありがとうございます」 「ミニバスでもやっていたのかな?」 「はい、まぁ・・・物心つくごろには、バスケやってました」 「お、俺と一緒だな!」 「そ、そうなんですね」 にかっと笑うピュア峰がまぶしい。 「・・・それにしても、3Pを打ちなれていたな。ミニバスでは3Pなどなかっただろう?」 「そりゃ半年、打ち続けていたので・・・」 「それはうちの緑間も同じだ。でも、それ以上の慣れを君に感じた」 早く解放してくれないかなーなんて思っているところに、赤司が鋭い目で痛いところをついてきた。「あー・・・」とつぶやきながら目を泳がせる。困った。前世でバスケをたしなんでいたから、なんて言えるはずもない。どう誤魔化したものか。鋭すぎるだろう、赤司。 「練習量が違うから、じゃないですか」 「緑間以上に練習しているやつなんかそうそういねぇぞ」 「あー・・・練習量というか、年数?が違う、的な」 「それってどういうことー?」 あーもうめんどくせぇな! 「・・・昔から、バスケの試合とかを、テレビでよく見てて。3Pもそれで知って。自分はフィジカルもPGもする器用さもないから、3Pでがんばろうって、小学生のときから練習してたんです」 「・・・なるほど、それで年数、というわけか」 赤司の痛すぎる視線を受けながらしどろもどろに話してみると、思いのほか及第点をいただけたようだ。一応は納得してくれたようで、ほかの人たちも「それでかー」とかいろいろ言葉をもらしている。 「君は特に秀でたところも目立った才能もないが、努力は素晴らしい」 アッハハハハ、耳に痛いですねー。 「俺たちは男子と女子だが同じバスケをプレイする者同士、仲良くしてほしい」 「あ、はい、光栄です、ありがとうございます」 どうやら気に入られたようで、へらりと笑い返しながら差し出された手を握った。仲良くしなければならないらしい。 あー困ったな。これは。ほんと困った。関わりたくなかったのに・・・。 どうすっかなーと考えながらするりと握った手を放そうとして、またぎゅっと握られた。 「隠していることも、いつか教えてくれると嬉しいね」 こっそりと。もう帰ろうとしている後ろのみんなには気づかれないように、自分にだけ聞こえるようにそうつぶやいた。 笑顔で。 「え?」 目を丸くして、本当に心の底から疑問そうに、そう返してやった。一切反応してやるものか。動揺なんて悟らせない。こちとらお前らより長く生きてきたんだぞ!! 「・・・いや、なんでもない。俺の気のせいだったようだ」 ではまた。なんて別れた。 ほんともう、魔王だよあいつ。 (2013/04/08/ 再録) |