「二次試験の内容は至ってシンプル。二日間にわたるサバイバルゲームだ」





 気配を殺し、木の上へと隠れた自分に気付くことなく、足元を数人の男が通り過ぎた。 タイミングを見計らい最後尾の男の後ろに降り立ち、声ひとつもらす隙さえ与えずに首に 手刀を打ち込んで気絶させる。まずは一人。すぐ前を歩いていた男に気付かれる前に意識のない男を担ぎ、 音を立てないように細心の注意を払いながらすぐ脇の草むらに飛び込んだ。とりあえずは男を横たわらせ、かばんの中や服をあさり目的のものを探す。ついでとばかりにみつけた食料などはいただいておいた。食料はありすぎて困ることもないし、確保できるときにしておかねばならない。隠れるように服の裾についたナンバープレートを見つけ、ピンを外すのすら面倒だというように服ごと引きちぎった。

「見事だね」

 突然降って湧いた声に驚くこともなく、肺の中の息を吐き出してすぐ上の木を見上げた。二次試験が始まってからずっと傍に感じていた気配。

「溜息なんて酷くない?」
「・・・ストーカーなんてされたら溜息の一つや二つでますよ」

 シャルナークさん。そう名前を呼べば人好きのする笑みを浮かべた。





「ナンバープレート、集めなくていいんですか?」
「んー?そんなの、残り数時間で他のやつらから盗ればいいよ」

 その言葉に極悪ですねと返せばそりゃ盗賊ですからと笑顔で返ってきた。だめだ、この人何処まで本気なのかわからない。半眼で当たり前のように隣を歩くシャルナークさんを見て、ハイキング気分のこの人をどうしたもんだかとまた溜息をついた。
 二次試験の内容は至極シンプルなもので、この小さな無人島(といっても十分でかいところだ) で二日間を過ごし、その間にナンバープレートを自身のも含め最低四枚は得ることというもの だった。最低というのはもっと枚数をとってもいいということ。つまりはライバルの潰しあいをしてもいいということだ。しかし相手を殺すことは不可。殺した時点で失格となりまた来年お越しください、となる。 それ以外はなんでもいいらしい。食料も現地調達。まさにサバイバル。ビスケとの修行にサバイバル項目があって助かった。修行中は本当に、ビスケを恨んだものだけど、今このときは感謝したい。
 それほどにサバイバルというのは疲れるものであるのに、ライバルの潰しあいなどと面倒なことを するつもりはさらさらなく、さっさと集めて後半は傍観を決め込むか逃げの一手だと 決め込んでいた。そしてあみだくじで決まったスタート地点から歩くこと十数分。 ストーカーもといシャルナークさんと出会い、どういうわけかいまに至る。

「それにしても見事だったね」
「は?」
「さっきの男を手篭めにするの」
「誤解をまねくような言い方はやめてください!」

 でも間違っちゃいないだろ?と笑うこの男を殴り倒しプレートを奪ってやろうかと 何度思ったことか。だけどシャルナークさんは自分から奪わないと(何故か)公言してくれているわけだし、敵意のない人を襲うほど自分は人ができていないわけではない。それに、この人強いし。結局はシャルナークさんを許容するしかないのだ。ため息をついた。

「それにしても君は体術もそうとうの使い手だよね」
「修行しましたしね。それでもシャルナークさんには負けますよ」
「あはは何いってんの、当たり前だって」
「・・・」

 額に青筋が浮かんでいるだろうが怒るだけ体力の無駄だ。無駄なんだよこの人に怒るだけ。落ち着くために息を吐き出し軽く精神統一する。あぁ、でも、何故シャルナークさんはストーカーまがいのことをしているんだろう。ふと浮かんだ疑問だが、素直に答えてくれる人じゃないよなぁ、なんて思っていると人の気配を感じて反射的に傍の木の上に飛び乗った。シャルナークさんはいつの間にか微弱に感じられる気配だけを残し何処にも見当たらない。さすがだな、と思う。とりあえず感心するのを後にして、というか感心すること自体癪だが目 の前の獲物に集中することにした。