「本当にあんたって一般人並ねぇ
「当たり前です・・・!!」

 あの後、とりあえずナポリタンを食べさせられ基礎能力を把握したいとかで 体力テストなるものを受けさせられた。首根っこをつかまれやって来たのは街をでて近くの山の中。 奥へと進み、少し開けたところで体力が尽きるまで走らされたり岩を 持ち上げさせられたりと自分の体を限界まで酷使させられた。 何度か吐きそうになったがなんとか持ちこたえた。 食後の運動にしちゃきつい、きつすぎる。

「ていうか、なんで、いきなり、こんなことに、なるん、ですか・・・」

 地面に大の字で横たわり、息も切れ切れに尋ねると先ほど握りつぶした手紙を差し出される。不思議そうに眉を寄せつつも上体を起こして受け取り、癖のある文字を目で追ってみた。脱力するにはあまりにも効果がありすぎた。なんだこれ。なんだこれ。師匠は弟子を泣かす趣味でもあるんですか。あ、ありそうだ。

「まぁそんなわけ。大人しく従っといたほうがいいわよ」
「・・・なにも、なにもいい残さずに逝ったあの人の遺志がこれですか・・・!!」

 妙に大きな便箋に書かれていた文字は一文だけ。“鍛えてやってくれ”。何が、何を、何故。不思議でたまらない。それだけを伝えるためにわざわざ手紙を書き残し、何も知らない弟子に託したというのか。あの師匠は。
 師匠の最後は波乱万丈な人生を送ってきたにも関わらず、静かなものだった。まぁ眠るように安らかに逝けたのなら人として申し分ない終わり方だろうとは思う。あの師匠にしちゃ静か過ぎるなとは思っていたけどこんなものがあるだなんて、わかってますか、師匠。師匠の遺書でいま、自分は(大げさかもしれないが)死にかけてます。

「あんた、一般人にしちゃあ体力があるほうだけどあいつの弟子にしちゃあ平凡すぎるのよね。 一体なんの師弟関係だったのさ?」

 さっきまで人の苦悩する姿を見ては笑っていたビスケは(ドエスかよ) そこがわからないという風に聞いてきた。確かにそこについて疑問を持つことはさぞかし普通のことだと思う。もう一度地面に沈んだ体を起こし居住まいを正そうにも無理そうなので空を仰いだまま視線をむけ、 また空へと戻した。あぁ、無駄に青い。

「自分はですね、遺跡とか考古学に興味があったんです」
「ああ、なるほど」
「え、この一言でわかっちゃうんですか」

 疲れている体で精一杯驚いて納得顔のビスケに目を向けた。

「あいつが遺跡オタクというのは周知の事実だったからね。あんたもあいつが詳しいのを 知って教えを請うたってとこでしょ」
「まぁそうなんですがせめて考古学マニアと」
「どっちもあんまりかわんないわさ」

 そう一刀両断され多少ショックを受けて再び空を仰いだ。数時間前にみた空は場所は違えど変わりなく、青と白のコントラストが眩しい。最初はただの気まぐれで、好奇心で旅に出ようと思った。ついでに師匠に 託された手紙を宛名の人に渡せればいいと軽い気持ちだったのに、こんな事になるとは 思ってもみなかった。

「あんた、こんな事になるとは思ってもみなかったでしょ」

 たったいま考えていたことを言い当てられぴくり、と体が動いた。

「図星、だわね」
「・・・まあ、そうですね。渡して、それで終わりだと思ってました」

 だから出会いからして少しふざけてたんだけど、あんなに警戒されるとは思わなかった。 思い出して少し寒気がする。もうあんな思いはしたくない、というかこの人を敵にまわしたくない。本当に。

「それは間違ってるわね」
「は?」

 思いがけない言葉を聞いてまぬけな声をだしてしまった。 それに笑うことはなく、確信したような笑みで続ける。

「あいつ、絶対わかってたわよ。あんたが旅に出ることも、あたしがこれを 断らないことも、手紙を届けることも」
「・・・でも自分が旅に出るって決めたの数時間前で、しかも気まぐれで 思いついたことなんですけど」
「そのあんたの性格も考慮に入れてのことだと思うわよ」

 そんなにわかりやすい性格をしているんだろうか。これでも友達にはなにを考えているか わからないといわれたことがあるのに。

「要は、あいつは(あんたにゃまだ)得たいが知れないってことかしらね」


(含みがあったような気がするが) 旧知の仲間にまでそんなことをいわれるなんて、一体師匠は何者なんですか。