最初はただの、好奇心だった。





 ばさばさと教科書を適当に放り込んだかばんを肩にかけ、 いつもの時間にいつもの帰り道を歩く。いつものように変わらない景色に退屈を覚え、 空を仰いだ。

「・・・・・」

 海岸へと続く道に足をむけたのは単なる気まぐれだ。





 防波堤の上に立ち、砂浜を越えてさらに向こうをみる。潮風が生ぬるく湿っているのが少し気持ち悪い。雄大に広がり煌めく海、青と白のコントラストの美しい空をみて、ひらめいた。

「旅に出よう」

 ひらめいた後の行動は早いもので、身軽に防波堤の上から飛び降りて走って家まで帰った。部屋へと駆け込むなり かばんを逆さまにして中身を全部だし、代わりに旅に必要だと思われるものを詰め込む。 自分が思いつかないだけなのか意外と少なくまとまった。そのかばんをベッドの上に放り投げて、クローゼットをやはり勢いよく開ける。ひらひらした制服を脱ぎ捨てて動きやすい服装を取り出し、移動しながら着替える。もごもごとしている間に空いた手で机の上に鎮座しているパソコンを起動させて適当にチケットを予約した。予約されたのを確認して電源を切り、若干乱れている服装を正してからキーボードの隣においてある古びた手帳を手に取った。ぱらぱらめくる手帳にはぎっしりと文字が書き込まれなにやらわからない図形が描かれている。そして最後に挟まれている一つの封筒。それらを無言で眺めて、放り出したかばんの中に突っ込んだ。残り少なかったから真新しい同系統の手帳をもう一つ、引き出しから取り出し同じようにして放り込む。かばんを閉じて、肩にかけた。

「さて、いこうかな」

 家族には置手紙の一つでもありゃいいだろう。





『拝啓 素敵愉快な腐れ家族ども
  旅にでます。探しても無駄ですので大人しくしていてください。
  貴方たちと会えなくなる日々を願い続けています。
 かしこ 貴方たちが妹だと言い張る存在より』