ふと、考えてみる。私はあの人のどこがすきなのか。どこが気に入ったのか。どこに惹かれたのか。そう取り留めのないことを考えてみる。答えは知っているのだから考える必要性など微塵にもないのだけど、それでも考える。私のこの想いが正しいのだと。悔いはないのだと。そう、考えてみる。あぁ、やっぱり。 「顔だよなぁ」 「なんの話?」 ふわりふわりと空を漂う雲のような思考が口にもれてしまったらしい。それでもこの場には一人であったはずなのだから零れ落ちた言葉に返ってくる言葉があるはずもない、はずであるが。 「エース・・・いたのか」 「居たぜ?君なら気づいてると思ってたんだけど、な」 そう言い切る前に上から降ってきたエースは無駄に目に痛いコートを翻しながら華麗に着地し、偶然だな、なんていいながらいつもの笑みを浮かべた。木の根元に座り込んでいる私は見上げるばかりで、背中に背負う青い空が馬鹿みたいに似合う騎士に相変わらず胡散臭い笑顔と言葉だという感想しか思いつかない。だいたいここに座り込んでしばらくたつ。どこが偶然なのか。最初のうちはそうかもしれないがいかにもいままさに気づきましたといわんばかりの態度は偶然なんてものではないだろう。 「それで?なにを考えていたんだ?」 「あー・・・」 見下ろすことに飽きたのか、エースはぼんやりとしている私に視線を合わせてしゃがみこみ爽やかに満面の笑みをむけてくる。何か問われたようだけどぼんやりした頭では意味を租借するには時間がかかって、反応を示さない私にエースは不思議そうにしていた。 「今日はやけにぼんやりとしているな、。どうしたんだ?」 「別にー・・・、ちょっと考え事」 「へぇ、俺を前にして誰かの考え事か。妬けちまうぜ」 あはは、と笑うエースはアリスが呆れるほどに爽やかではあるが一切合財笑っていないのである。むしろ怒っている。機嫌を損ねてしまった。笑い声でそのことに気づいて一気に覚醒する。妙に勘のいいエースの前でぼんやりしていては命取りになるということを忘れていた。迂闊だ、迂闊すぎる。 「なぁ、君は誰の事を考えていたんだ?」 「・・・・・・・・・我が城の宰相閣下について」 「ペーターさん?どうして?」 顔を盛大に歪めてやりながらも素直に教えてやったというのにエースは何故ペーターのことを考えていたのかと突っ込んでくる。にこにこと貼りつかせた笑顔がさっさと白状しろといっているようでさらに眉を寄せた。どうせこの嫉妬深い男のことだ、己のことを二の次にして他の男に思考を飛ばしていたことがバレて既にテントに連れ込まれることは決定済みであるし、逃げられやしないのだから黙り込んでいても結果は同じである。それならば機嫌ぐらい取っておいてやるか。こんなつまらないことで嫉妬する男に。 「ペーターさんのさ、顔がすきなんだよねぇ」 「アリスからそれは聞いたけど君もだったとは、初耳だぜ」 「そうだろうとも、いま初めて口にだしたし」 ちなみにアリスも可愛くてすきだと付け足せば隣に座り込んだエースは面白そうに相槌を打ってそうかそうか、としきりに頷いている。 「ついでにその顔のいい片想い相手を可愛い女の子に取られた気分はどういう感じか教えてくれないか?」 にこにこと相変わらず爽やかな笑みを浮かべて人を追い詰めるようなそんなことをするエースにどれだけ嫉妬してんだよ、と呆れた溜め息しかでてこない。ここまでとは、思いもしなかった。じろりと非難染みた視線を送ってもかわされてしまうし、どうしたもんだか。なんとなく、いまならこの玩具が欲しいと駄々をこねる子供の母親の心境がわかる気がする。 「別にどうもしない。ペーターさんがアリスにむける一途さをみれてさらに愛が深まっただけだし」 「はいつからそんな綺麗事をいうようになったんだ?」 「お前はいつからそんなに嫉妬深くなったんだ?」 「やだなー、俺はいつも通りだぜ」 自覚なしかいこの男。笑みを浮かべたまま可愛らしげに首を傾げるエースに厭きれてなにもいえない。ずしりと脱力感に襲われうな垂れた。この男は私というものをわかっていない。 「あのなー、顔だけみればエースよりペーターさんのほうがすきだから。まじで」 「へぇー、俺よりペーターさんのほうがすきなんだ?顔だけ」 「顔だけ」 顔だけ、というところに一応力をいれれば我慢できないといわんばかりにエースは噴出した。今度は凄みをきかせて睨むけれどエースの笑いは治まりそうになく腹まで抱えて笑いす始末である。何度目になるのかわからない溜め息をつきつつ、やっぱりこの人は私のことを理解しているのかもしれないと思った。あぁ、それでいてあえて追い詰めるのか。相変わらずなんという男なんだ。 「っははは!っあー、ありがとう、君のそんなところがすきだぜ」 「それはどうも。これで妬く必要がないってわかっただろ」 「ん?そうなのか?」 「そうだよ。ペーターさんをすきだったなんて昔の話。もうあんな変態でストーカーな痴漢のことなんてどうでもいいよ」 「でもすきなんだろ?」 「・・・・・・・」 「十分すぎる材料さ」 寝転がり肘をついて上体を起こしているエースは春風のように爽やかに笑うが、私はそれをみて頭を抱えたくなった。あぁもうこの人は。そこまでいわせたいのか。渋々と、きつく眉を寄せて顔を歪めて、息を吐き出した。 「あの人をまだすきだっていうならこんなとこにいないでさっき誘われたお茶会に顔をだしてるっての」 いつ帰ってくるかわからない人が必ず通る場所。城にいくために必ず通る道。逢うつもりがないのならわざわざこんなところに出向かない。座り込んで待つはずがない。それを知っていていわせようとするエースはなんて酷い人なのか。羞恥プレイもいいところなんだぞこれ。 嘲笑するように見下ろしたエースは依然として笑みを浮かべている。 「これで満足かよ」 「あぁ、及第点だな」 腕を掴んで引く力には逆らいはしなかった。
明日も君が好きだよ
「だいたい私が来る前からいたんなら声かけろよ」 「悪い悪い、俺を待ってる君をみていたくてさ」 「・・・・・・・馬鹿じゃないの?」 「顔、赤いぜ?」 「黙れ放蕩腐れ騎士」 |