ばちん、と目が覚めた。心臓の鼓動が大きく聞こえて、いつも目が覚めるときに見える天井に安堵を覚えた。流れる汗を拭うことすらもせず呼吸は荒く、目が見開かれたまま震えが止まらない。それほどに衝撃的で、現実不可能な夢だった。
 夢は覚えていることがほとんどないけれど、どうしてこんな夢だけこうもはっきりと覚えているのだろう。感触も臭いもなにもかも現実的で、するりと手の中から滑り落ちていく感覚。


「・・・はっ、馬鹿馬鹿しい・・・」

 馬鹿馬鹿しすぎて涙すらでない。あるはずがない。そんな現実が、起こり得ることなんて想像もつかない。それほどに現実離れした夢だった。肺に溜めていた息を吐き出し、くしゃりと髪をかきあげる。なんて夢見の悪い。ナイトメアと逢う以上に悪すぎる。あいつが仕組んだことだったら一発殴ってやらねば気がすまない。眉を寄せつつもう一度目を閉じた瞼に光が届かなくなって、反射的に目を開いたら逆光になっているエースが覗き込んでいた。

「随分とうなされていたぜ。どうしたんだ?」
「・・・別に、なんでもない」

 素っ気なくそう答えればそうか、と笑みを浮かべてエースは読書に戻った。相変わらずこいつは人のことなんてどうでもよさそうだよな、なんて思いながらエースを膝の上から見上げて改めて現実を確認する。そう、ここにいる。私に膝枕して、心配のようなものをしてくれて、傍にいてくれて、一緒にいる。
 それが私の幸せ。

「・・・で?一体どうしたんだ?」
「だから、別に、」
「嘘、つくなよ」

 ぱたん、と本を閉じる音が異様に大きく聞こえた。向けられる視線にあきれたものを含んでいて、あのいつもの爽やかで胡散臭い笑みがない。むけられる視線は真摯、にみせかけている。あぁ、でも、わかっていながら騙されるんだよな、この男に。惚れた弱みかちくしょう。
 さり気なく視線を外そうにも顔を両手で挟まれて無理やり視線をあわせられる。顔を歪めて非難じみた視線を送ろうにもエースはにこりと有無をいわせないような笑みをみせた。本能的に逆らったら危ない特に夜が、とひくりと頬がひきつったのは仕方ないことだろう。溜め息をついて体の力をぬき、不安を隠して口を開く。

「・・・・世界が、壊れる夢をみた」
「世界?」
「そう、エース、あんたが死ぬ夢」

 冷えていく体。動かない体。もう私を映すことのない瞳。もう言葉を紡ぐことがない唇。広がる血溜まり。世界が、崩れていくおと。夢だというのに感触までもがリアルで、エースの命が、時計が、時間が、滑り落ちていく感覚。あんなもの、夢だとしても耐えられなかった。知りたくなどなかった。
 ぐっ、と眉間に力をいれて目を閉じ、唇をかみ締めていたら一瞬だけ暖かいものが触れて、離れた。反射的に目をひらけば満面の笑みのエースが目の前にいる。一瞬だけとはいえ思考停止したのはいうまでもない。

「嬉しいぜ、
「・・・なにが」

 自分が死んでしまった夢をみたというのに、なぜ嬉しいのか。死にたいのか。こいつは。

「そこまで俺を想っていてくれたとは知らなかったぜ」
「・・・・エースこそ嘘いわないでよ」

 嬉しそうに満面の笑みでいうエースに苦々しくそう返すも、顔に集まる熱までは隠しきれないからきっとばれている。何度も降ってくる優しい口付けと、笑みがそれを語っている。
 抱きつくようにして、首に腕を回した。どうか、拭いきれない不安をきれいに取り除いて。

「エース、知ってる?私の世界はエースで構成されてるんだよ」
は知ってるか?俺の世界にはしかいないんだぜ?」

 あぁ、そうやって私を満たせてくれるあなたの総てを愛してる!




世界が割れる夢を見た。




「さて、お仕置きといこうか?」
「え、」
「安心してくれてもいいぜ。優しくしてあげるよ。俺は騎士だからな」