考えろ考えろ考えろ。考えるんだいまこの状況を何故このような状態に陥ったのかを何故何故何故何故どういうことだどうして背中が痛いなんであの憎たらしい笑顔が逆光になっているというか私が一体なにをした答えろ愚かにも私をここに引き込んだ元凶蓑虫め!

「あれ?いま他の男のこと考えた?」

 顔を盛大に歪めて見上げていたというのに顔色ひとつ変えずにいつもの胡散臭い笑顔を浮かべていたエースはこのとき初めて表情を崩した。ぴくり、と眉を動かしてにっこり笑う。楽しんでいたような雰囲気から一転してなにやら追い詰めるようなそんな眼差しをむけられ、なんでこんなときばかり、と溜め息をついた。こんなときでなくても妙に勘がいいんだけど、この男は。

「さぁ知らねぇよ」
「あくまで白をきるつもりなんだ、は」

 す、と目を細めて浮かべる笑顔はいつものように胡散臭い爽やかなものだったけど何処か責めたてられているようで気持ちのいいものじゃなかった。普段からエースが浮かべる笑顔なんて気持ちのいいものなんかでは全く全然一切なかったけど。だがそれがどうした。いま、何故、私が、こんな気持ちにならなければならないのか。そっちのほうがより大事で重要だ。何故私が責められなければならない。私が責められるなんてお門違いじゃないだろうか。人の思考まで支配できるなんて思い違いも甚だしい。

「あーはいはい。ちょっとこんなふざけた世界に引き込みやがった芋虫野郎のこと考えただけだ。だから殺気立つな」
「ふーん、俺とこんな状態になっておいて他の男のことに想いを馳せるなんて、妬けるな」
「いやいやいや意味わかんないし」
「あぁ、なんだ、わざと?君って意外と性格悪いんだな」
「てめぇよりましだ。てかこの現状は不本意なんですけどそのへんわかってんの?」
「こんなことで俺の愛を確かめなくても十分に愛してあげてるのになー、もしかして伝わってないとか?」
「馬鹿いってないで少しは人の話聞いてくれません?」
「え、聞いてるに決まってるじゃないか。の話を聞き逃すなんてそんな間抜けなことするわけないだろー」

 心外だといわんばかりに目を丸くするエースに聞いてるだけだろと突っ込めば目を細めて笑う。あぁもう性格悪いのはどっちだよ。ぎらりと睨んでもエースは笑みを浮かべるばかりで、諦めたように太ももを撫でる手を押さえつけた。

「なにしようとしてんんだよてめぇは」
「なにって、聞きたいんだ?ってばやーらしー」
「嬉々としていうお前のほうがいやらしい。卑猥だ。淫猥だ。このエロ代官」
「随分と期待されてるみたいだし、その期待に応えて今日は目一杯優しくしてやるぜ!」
「そんなもんいらんわ!!」

 ぐっ、と近づいてくる顔を抑えて力の限り拒絶する。なんで、どうして、私がこの男に押し倒されなければならないのか。あわや貞操の危機を迎えねばならないのか。いや、もうすでに奪われているんだけど。この男に。何故だか成り行きで。あの時は気づいたら朝で、横に眠っていたエースを見て絶叫したものだ。消し去りたい過去を反芻して死にたくなったがいまは目の前の現状をどうにかしないとまた喰われてしまう。

「初めてってわけじゃないんだし、そんなに嫌がることないだろー?」
「い・や・だ・に決まってる!」
「へぇー、もう何回もしてるのに?」
「お前が流して無理やり何回もヤったんだろが!!」
「・・・その割りに、悦んでたみたいだったけど?」

 押さえつけた手を舐められてびくりと体が反応する。力が緩んだ隙に手首を掴まれ押さえ込まれていたエースの顔が露わになった。相変わらずの爽やかな胡散臭い笑顔。一瞬でもそれを他でもない私が歪めてやりたいなんて思った笑顔。いまだに私は混乱の中にいる。

「君ってさ、認めちゃえば楽になるのに絶対そうしないよな」
「・・・認めるも何も、反発してるものなんかねぇよ」
「あっはは!君ってば馬鹿だなぁ、いや、この場合頑固っていうのかな」
「・・・」
のそんなところが可愛いぜ」

 そういって口を塞ぐ男に抵抗する気もおきなかった。もうわかっている。知っている。ただそれを認めたくないだけだ。嫌々ながらも一緒に迷子になるのも、絡んでくるエースの相手をするのも、本気で抵抗しないのも、そういうことだ。エースはそれを可愛いという。立ち止まったままの私を可愛いという。いつまでも意地を張り続ける私を好きだという。自分でいうのもなんだが、随分と趣味が悪い男だと思った。そういう私も負けず劣らず趣味が可笑しいのだろうけど。

(なーんで、こんな男に惚れちゃったんだろうなぁ)

 この想いを自覚した瞬間から私は混乱の中にいる。



シェイクされた思考