「制御不可能、告白します」

 右腕をびしっと伸ばし、胸をはって堂々と高らかに宣言すれば時がとまってしまったかのようにその場の空気が凍りついた。いまこの時間は女王が主催するお茶会を城の庭で開いている時間帯だ。招待する客などおらず、身内のみであるのだけど。そこにいきなり突飛な言葉が響き渡れば、確かに目を丸くして停止してしまうかもしれない。この城の面々のように。
 腕を伸ばした格好のまま考えていたら、誰よりもいち早く復活したのはエースで、紅茶を手ににっこり笑ってペーターを殴り飛ばした。何故。

「告白って誰に?」
「お前だエース」
「へぇー、愛の告白以外なら受け付けないぜ」

 胡散臭い笑みを浮かべてそう言い放つ騎士に嘲笑してやればビバルディが口を挟んだ。ちなみにペーターはエースに噛み付いているけど返り討ちにあっている。騒がしくなってきたものだ。

「のぅ、、告白とはなんじゃ?」

 ビバルディは優雅に紅茶をのみつつ隙のない視線をおくってくる。それに真っ向からむきあえば銃をぶっ放してじゃれあっているウサギと騎士を他所に荘厳な、威厳に満ちる空間が構成された。さながら裁判所のような、そんなもの。
 まっすぐにビバルディを見つめ返して、いう。

「エースを殺したくて殺したくて殺したくて仕方ないんですけどよろしいですか」
「許す。殺れ」

 コンマ一秒もなかった。むしろ台詞の最後と重なっていたその言葉に、歓喜を覚える。嬉々とした表情を浮かべて振り返ればじゃれあいは終わったようで、ペーターがあなたのそのように心底嬉しそうな表情など始めて見ますよ、なんて鼻で笑えばエースがまたど突いていた。だから、何故。

「へぇー、君って俺を殺したくて仕方なかったのか」
「そうですよ。随分前から殺したくて殺したくて仕方ありませんでした」
「君にそう想われていたなんて光栄だな」
「相変わらずお前の感性は腐っているな。一度死んだらどうだ」
「はははっそれは無理なお願いかな。に会えなくなってしまうだろ?」
「心配するな。二度と会えなくなるよう破壊してやる」

 にこにこにこ。笑顔の応酬の裏で渦巻く黒いもの。日常と化している一こまではあったけど、殺す死ぬなどという話題は一切上らなかった。上らせなかったのだ。エースはこれでも、これでもハートの城の重鎮だ。やすやすと殺してしまっては仕事が回らなくなってしまう。いや、違う、ほとんど城にいないのだから仕事がまわらないのではなく、責任を押し付ける輩がいなくなる、が正しい。ふむ、と自己完結しているとエースがまたべらべらと喋り始めた。

「殺したくてたまらなくてもの関心は俺にむいているんだろ?愛されてるよなーはははっ!」
「おいいい加減その頭まで旅にでるのをやめろ。私がお前をいままで殺しにかからなかったのは一応お前が城の重鎮だからだ」
「それだけ?」
「なにがいいたい」

 眉を寄せ、器用にも片眉を持ち上げて問う。相変わらずエースは後ろに背負う青空が気味が悪いくらいに似合う笑顔だ。

「殺したいくらい俺のこと、愛してるんだろ?」
「構わん、今すぐ殺れ」

 殺意を催す笑顔から視線を外してビバルディをみれば間髪居れずにそう返された。その言葉にいいようのない感情があふれて、顔は自然と笑みを作る。

「喜べ。この私が冥土の土産をくれやる」
「へぇ、なにを?」
「"愛"を」

 虚をつかれたように目を丸くしたエースの懐に踏み込んで小太刀を抜いた。響き渡る金属音が耳に痛いが、笑みが治まらない。

「それはそれは・・・、是非とも生きてもらわないとな」

 せめぎ合う両刃の剣と小太刀の向こうでエースが笑った。私も釣られて笑みを深くする。


「残念だな。殺されてくれるお前にこそ愛を感じるのに」





制御不可能、告白します





 そうやって私と彼は愛を語る。