「だーかーら!にはこっちのほうが似合うっつってんだろ?!」
「テッドってば趣味が悪いんだね。彼女にはこっちのほうが似合うに決まってるだろ」
「はァ?のほうが趣味わりぃじゃん!にそれは似合わねぇよ」
「そっちのほうが似合わない」
「…さん、テッドさん、なにもそんなにこだわらなくても」
「「!」」
「は、」
「「どっちが自分に似合うと思う?!!」」
「あ、あははは…は」

 もちろん俺のほうだろ、いや僕のほうだね、などと火花を散らしているお二方には 悪いのだが、自分的にはどうでもよかった。

「「!!」」
「あ、はい、うん」

 なんていえるはずがない。


□◇□


 いろいろと大変なことはあったが無事に買い物も終わり、 前もみえないくらいの両手に荷物を抱えて道を歩く、はずだった。

「そういえばはどこに住んでんだ?送ってくぞー」
「いや、まぁ、どこといわれましても」
「え、なに?僕たちには教えられないって?せっかく知り合ったのにそれはないよ、
「はぁ、そういわれましても」

 右手のほうに赤、左手のほうに青を纏う少年たちを引き連れて自分は道を歩いている。 いわずもがな、女の子には荷物を持たせるわけにはいかないとかで自分は手ぶら、さんとテッドさんが荷物を半分づつもってくれている。自分の荷物なんだから 持たせる云々の前の問題だと思うのだがそのへんはどうなんだろう。適当なことをつらつらと考えながらやはり適当なことを答えながら歩いた。しかしこのふたりはいつまでついてくるんだ。

ってば聞いてる?」
「聞いてますよー、難聴にはまだ早い年頃ですからねー」
「んじゃあ答えろよ。送ってくから、家の場所」
「はぁ、そうですねぇ」
「さっきからそればっかり」

 さんがため息をつくのを横目で一瞥した。申し訳ないとは思うのですが 答えられないんです。

「まさか、自分ちの場所も知らないとかじゃねぇだろうな?」
「馬鹿じゃないのテッド。自分が住んでるとこ知らないでどうすんだよ」
「だよなぁ、悪い」
「…」

 あはははと笑い飛ばしながら背中を叩くテッドさんに、あきれた顔しながらため息をつく さんに、 全くもってその通りだとどの口がいえようか。
 自分は自分が住んでいる場所を知らない。あの塔から一歩もでていないのだから 当たり前といえば当たり前のことだ。たとえ出たとして塔の周りの平野で修行を 行うくらいだし、今日初めて塔がある場所が島だと知ったのだ。 そんな自分が家の場所などいえるのか?いえるはずがないだろう。その前に 自分はグレッグミンスターに住んでなどいない。そう答えたとしてもどうやってきた んだとか外は外敵ばかりで危ないからとさらに送っていくだのうるさくなる。 それは避けたい。さて、どうしようか。

「あ、、そろそろ鍛錬の時間じゃねぇの?」
「へ、あ、…うん、本当だ」

 テッドさんもさんも目の上に手をかざしながら上を向くもんだから不思議に思って まねてみた。だがさっぱり分らない。そんな自分を見かねてか、テッドさんが 太陽の位置でおおまかな時間をはかっているのだと教えてくれた。そんなことができるなんてすごい。素直に感心すれば、普通だといって照れていた。愛いやつめ。

「まぁそういうわけだからごめんな、今度見かけたら声でもかけてよ」
「悪いな

 いつの間にかたどり着いていた噴水前のベンチに荷物を置いて、さんたちは足早に駆け去っていった。その際にテッドさんが軽く片目を 閉じたことから、たぶん自分がどうしようか悩んでいたのに気づいてわざと さんが帰るよう仕向けたんだろう。鍛錬の時間とかは本当だろうけど。子供っぽい印象を受けたがなかなか大人な部分もある人だ。二人の背中が見えなくなるまで眺めてベンチの空いているところに座った。ふたりに手伝ってもらい意外と早くついてしまったせいかルックはまだいない。
 さて、なにをしていよう。


□◇□


 から見えない位置に来たところで走っていた足を止めて歩き出す。

「さて、と。テッドくん、なんであんなこといったのか理由をお聞かせ願おうか」
「なんのことだよ」
「白をきるな。鍛錬の時間だなんて嘘じゃないか」
「おいおいそれは間違ってんぞ。まだ早い時間ってだけだ」
「うん。歩いていっても余裕なくらい早いね」

 隣から向けられる胡乱気な視線に別にいいじゃん早いことにこしたことはねぇだろー とかいいながら笑いつつもいやな汗が背中を伝う。しばらく胡乱気に眺め、 そのうち諦めたかのようにテッドは頑固だからなとつぶやきながらため息をついた。よし、一山超えた。

「別にいいだろ、そのうちまた会えるって」
「なにを根拠にそんなことがいえるんだよ」
「このテッド様がいうんだから会えるもんは会えるんだよ!」
「嘘くさい」

 それじゃ、ときれいな笑顔で切り捨てたと別れ、後姿を見送る。は振り返らない。というか気づいていない。今にも駆け出したい衝動を辛抱強く耐え、が角を曲がり 姿が見えなくなった瞬間に踵を返し全速力で駆け出した。息をきらしてしばらくの間借りている家へと駆け込み、階段を一段抜かしで駆け上がる。 一目散にとある部屋へと走り勢いよくドアを開けた。

「おい!お前のいったとお、どわぁっ!!」
「うるさい黙れ馬鹿」
「おまっ、殺す気か!!」
「そんぐらい避けられるでしょーテッドならさ」

 青ざめた顔で後ろを見ればドアの向こうの壁には短剣が深々と刺さっている。 手加減なしに投げられたのは 一目瞭然だった。ため息をつきながらその短剣を軽い動作で引き抜き投げ返す。 投げ返された短剣をなんでもないことのようにうまく受け取り、鞘へと収めた。

「お前、そのうち俺を殺してくれるなよ」
「あーはいはいわかってるわかってる、殺すはずがないって、テッドだし」
「それはどうも」

 そういいながらため息をつき、ベッドの脇においてあった椅子を引き寄せ逆に座る。 椅子の背中の上に腕をおいてあごを乗せ、ベッドに寝転がっているやつを見下ろした。

「おい、お前のいった通りだったぞ」
「でしょー?だからまだ””を名乗ってんの、さ!」

 鍛えられた腹筋を使って勢いよく上半身をおこし、ベッドから足を下ろした。 丁度テッドと向かいあうような形で座る。

「だから誘ってもついてこなかったんだな」
「まぁねぇー、時期とか考えてなんとなく今日だって思ったし、さすがに会っちゃ いかんでしょ」

 ふと視線を横へと流し、開いている窓の外をみる。今日は恐ろしいくらいきれいな 晴天だ。酷く昔のことだが、こんな空だったことは覚えている。

「””とはさ」

 窓から吹く風に薄い茶色の髪がゆれ、前髪で隠された蒼い目が見え隠れした。